金香百合さんは人権、ジェンダーを中心としたさまざまなワークショップのファシリテーターとして、日本全国を文字通り飛び回っている人だ。そのワークショップを一度体験した人は「もう一度受けたい」と願い、その噂を聞いた人は「自分も受けてみたい」と切望する。金さんの体は一つなのに、ラブコールは増すばかり。そこで、ライブは無理でもせめて文字で金さんのワークショップを体験してもらおうという発想で、本書は企画された。
そうして選ばれたのは、二〇〇四年に大阪府富田林市立中央公民館で行われた「女性学講座２００４ 人間関係論序説パート９〜殻を破って２ 仲間とともに街に出よう！」だった。この講座は一九九五年に開講して以来、一人の講師が一〇回をすべて受け持つという方法で続いてきたもので、九人目の講師として金さんが選ばれたのだ。
この講座で忘れてならないのがもう一人の主役、金さんをして「すごく熱い」といわしめた自称「タントーシャ」、浮穴正博さんだ。「講座というのはタントーシャの『作品』」であって、「講師も受講生も部屋も机も椅子も、講座を構成するあらゆる要素は『作品を仕上げる道具』だと思っている」（一八四頁）と「あとがき」で語る彼が、これまで関わった講師、そして受講生とたしかな信頼関係を築いていることは、「対談 講座を終えて」でよくわかる。本書では、講師と担当者、そして受講生の三者によって、「大人の学び場」が色鮮やかに紡ぎだされていく醍醐味をこそ味わってほしい。各地で講座担当者として日々奮闘している人には、大きな励みになるだろう。
さて本書は、実に多様な読み方ができるお得な本である。もちろん、金さんのファンで著書を待望していた人は隅々まで何回でも読んでいただけばよいのだが、何かの縁で入手したような人も、十分楽しめるようになっている。
コンテンツの紹介を参考にして、自分なりの楽しみ方を見つけてほしい。
【コンテンツ】
教室だより タントーシャが書いて毎回講座生に配っていたもの。前回の様子とタントーシャの個人的考察が描かれており、これを一〇回分ほんの二〇頁を通して読むだけで、全体の流れがざっとわかるので便利だ。そして、気づかぬうちにタントーシャの魅力（毒気？）にどっぷりはまってしまうのは、うけあい。
第一〜一〇講座 講座の内容からワークを省き、金さんの語りに絞って濃縮したもの。日常生活をフィールドワークの「現場」とする金さん自身が見聞きし発見したことが、誰にでもイメージできる形でかみくだいて語られている。また、テンポのよい口調が文章にいきているので、生で聞いているような感覚でストレートに心に響いてくる。傍観者気分で読んでいた人も、すっかり参加者の一員になっているはずだ。
この回の流れ 各回二時間の講座がどんな流れで組み立てられていたのかを、図式化したもの。ファシリテーター金香百合のネタ、講座の構成を知りたい人は要チェック。これから講座を企画する人やファシリテーターをする人には、特に参考になる永久保存版だ。
語録 講座生や編集者の印象に残った言葉を拾い出した金香百合珠玉の名語録。飛ばし読みと決め込んでいた人も、はっとしたりドキッとしたり。心に残る言葉を見つけたら、第一〜一〇講座をすべて通して読んでしまうだろう。
対談 講座を終えて、金さんとタントーシャと取材者が語り合った記録。普段語られることの少ない担当者のこだわりや講師の思いを知ることができる。ファシリテーターに必要なのは「愛」と「想像力」、担当者に必要なのは「想像力」と「サービス精神」なのだという。司会者も立場を忘れて対談に加わってしまった本音トークは必読。
ファシリテーター論 絶版になっていた金さんの論文を再録したもの。金香百合のファシリテーションを理論として簡潔に学ぶのに最適。入手をあきらめていた人は本書を買って。
どこから読むか決まりましたか。まだ買う決心がつかない人には、購入者特典についてお知らせしてしまおう。本書は内容の面白さもさることながら、表紙と背表紙のデザインがポップでおしゃれだから、手元にあるだけで楽しい気分になれて、しかもあなたの本棚がセンスよく変身するというすばらしい特典があるのだ。これで迷いは消えたでしょう。
さあ、今すぐ「大人の芳醇な学び場」の扉を開いて！
