特集
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特集にあたって
なぜ、いま「若年者のリテラシー」なのか?→ 全文PDF
-要約-
本稿では、本号の特集テーマ「困難を抱える若年者のリテラシーとその支援」に関する部落解放・人権研究所の共同研究プロジェクトについて概観した。本プロジェクトの発足に至る背景や本研究の基盤となる「リテラシー」概念を整理・検討するとともに、本特集における諸論考のベースとなった当該若年者及びその支援者(支援組織)に対する実態調査の概要を、その目的や具体的対象、内容や方法の観点から整理し、提示した。
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岩槻知也 |
欧米の成人基礎教育と日本の社会教育
批判的リテラシーとの関連において→ 全文PDF
-要約-
困難を抱える若年者は、人生を拓くリテラシーの獲得に問題を抱えていることが多い。それぞれが持つリテラシーを活かしながら多様なリテラシーを得ることを保障するうえで、成人基礎教育の理念と実践が重要になる。欧米におけるその動向を参照しながら、日本における識字運動や夜間中学校の取り組みを踏まえて、学校の再構築とともに、学習者の主体性や生活の場重視の社会教育での成人基礎教育の確立が課題となっている。
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上杉孝實 |
学校を離脱した子どもへの支援
「田川ふれ愛義塾」におけるエンパワメントアプローチの試み
→ 全文PDF
-要約-
本稿は、更生保護施設の質的調査を行い、元非行少年5人の語りをもとに、社会的自立に必要なリテラシーと、支援の在り方について考察したものである。彼らの語りは、不安定な家族と貧困の生活から非行に走るまでの過程と、自己回復を果たすまでのライフヒストリーである。考察から得られた知見は、リテラシーは複数の要素が相互関係の中で機能するものであること、これらのリテラシーは、エンパワメントアプローチによる支援によって有効に機能することである。
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松下一世 |
非行系青少年支援における「男性性」の活用
文化実践に埋め込まれたリテラシーに着目して
→ 全文PDF
-要約-
本稿では、田川ふれ愛義塾の塾生たちが非行に向かう過程および更生に向かう過程を男性性の視点から分析し、リテラシーに関わる実践や支援が、ジェンダー実践のような、より広い文化実践に埋め込まれていることを示す。本稿での分析をふまえると、リテラシーに関する支援は、学習者の生活世界に寄り添い、そこで行われている文化実践をふまえながら、学習者とともに社会的目標を構築することを出発点としなければならない。
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知念 渉 |
若者への学び直し支援の実際
釧路自主夜間中学「くるかい」の現場から→ 全文PDF
-要約-
本稿は、リテラシー概念を手掛かりに、ひとりの若者の学び直しのプロセスを記述したものである。小学校3年生から不登校で心も身体も固まった状態だった彼が、今では高校に進学し、アルバイトも経験し未来に希望を語る。その軌跡を本人の語りや筆者の観察記録等をもとに再現していった。その作業を通して、学び直し支援を考える際、リテラシーの運用能力を「適正値」に引き上げるという発想では不十分であり、リテラシーの再習得支援を媒介にした関係の編み直しとして捉えることの重要性が見えてきた。
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添田祥史 |
地域におけるリテラシー支援の場としての識字学級
困難を抱える若年者にとっての識字→ 全文PDF
-要約-
「困難を抱える」若年者が社会問題化している今日、部落においても若年層に不安定化の傾向が見られ、その支援は喫緊の課題となっている。そのような中、部落内外の「困難を抱える」若年者を識字学級で受け入れ、支援を実施している地域がある。それらの事例からは、地域に根づいたリテラシー支援の場である識字学級が、「困難を抱える」若者のセイフティネットや居場所のひとつとして、一定の役割を果たしていることが示唆された。
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棚田洋平 |
論文 |
2007年改正戸籍法の検討課題と本人通知制度の展望→ 全文PDF
-要約-
戸籍には、従前の本籍地が記載され、また1組の夫婦と氏を同じくする子を単位として編製されていることから、従前の戸籍を遡って出自や家族関係を調べることが可能である。差別事象が後を絶たないことから、2007年に抜本的な法改正がなされたが、組織的な戸籍謄本等の不正取得が発覚した。個人情報保護の視点からは、有資格者や第三者が戸籍謄本等の交付請求をした事実(交付請求者の氏名を含む)を本人に通知する制度が不可欠である。
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二宮周平 |
中村拡三の「解放の学力」論成立に関する一考察→ 全文PDF
-要約-
1969年に成立した「解放の学力」論については、これまで、様々な論者によって検討がなされている。しかし、それらの先行研究には、「解放の学力」論の考案者である中村拡三の思想に着目し、歴史的に検討する視点が欠落している。このような問題意識から、本稿では、「解放の学力」論成立過程における、中村の思想変容を明らかにするとともに、それを促した外部環境を考察した。
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板山勝樹 |
資料 |
部落解放・人権啓発基本方針(第3次)→ 全文PDF
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部落解放・人権研究所 啓発部会 |
報告 |
マイノリティと教育権
第22会期人権理事会に参加して→ 全文PDF
-要約-
本稿では、2013年2月下旬から3月中旬まで、部落解放・人権研究所の原田伴彦記念基金の支援を受け、インターンとして反差別国際運動(IMADR)ジュネーブ事務所受け入れのもとに傍聴した第22会期人権理事会のなかでも、筆者の関心分野であるマイノリティとその教育権問題について報告する。
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阿部千里 |
書評 |
大森直樹・渡辺雅之・荒井正剛・倉持伸江・河合正雄編
『資料集 東日本大震災と教育界 法規・提言・記録・声』(明石書店、2013年)→ 全文PDF
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佐々木賢 |
大本敬久『触穢の成立 日本古代における「穢」概念の変遷』(創風社出版、2013年)→ 全文PDF |
水本正人 |
編集後記 |
本号の特集「困難を抱える若年者のリテラシーとその支援」は、当研究所の「若者の生活とリテラシー調査研究会」(2011年度末~)、ならびに科学研究費・調査研究事業「社会的困難を有する若年者のリテラシー実態とその支援に関する実証研究」(2013~2015年度)の中間報告である。日本においても、「困難を抱える」若
年者の存在が社会問題として取り上げられるようになって久しいが、その実態と支援のあり方について、具体的な事例―更生保護施設、自主夜間中学、識字学級等―を対象にして、リテラシーという観点から検討をくわえている点が、本調査研究の特長である。さきほど(2013年10月)、PIAAC(国際成人力調査)の結果が報告されたが、それとの関連で「困難を抱える若年者のリテラシー(支援)」という視点から「何が言えるのか?」ということについては、本調査研究の今後の展開に期待したい。
また、資料として「部落解放・人権啓発基本方針(第3次)」を掲載した。本方針は、「部落解放・人権啓発基本方針」(1988)、「部落解放・人権啓発の発展のために(提言)」(1994)に続き、この間(2010年度~)、当研究所の啓発部会で重ねてきた議論を形にしたものである。啓発活動の推進や基本方針の策定等に際して、ひ
ろく活用していただきたい。
そのほか、論文として「2007年改正戸籍法と本人通知制度」「中村拡三の『解放の学力』論」に関する論考(2本)と、原田伴彦記念基金報告(1本)、部落史(古代)、東日本大震災にかかわる文献の書評(2本)を掲載した。
次号(2014年3月刊行予定)は、「200号記念人権・部落問題研究の成果と課題」と題して、「総論」「啓発」「人権」「行政」「地域・教育」「歴史」「調査」、各部門における最新の「成果と課題」が結集する。乞うご期待。
(棚田洋平)
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執筆者一覧 |
岩槻知也(いわつき・ともや)
京都女子大学教授
上杉孝實(うえすぎ・たかみち)
公益財団法人世界人権問題研究センター客員
研究員/京都大学名誉教授
松下一世(まつした・かずよ)
佐賀大学教授
知念渉(ちねん・あゆむ)
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程
添田祥史(そえだ・よしふみ)
北海道教育大学釧路校准教授
棚田洋平(たなだ・ようへい)
部落解放・人権研究所研究員
二宮周平(にのみや・しゅうへい)
立命館大学教授
板山勝樹(いたやま・かつき)
公立大学法人名桜大学准教授
阿部千里(あべ・ちさと)
北海道大学公共政策大学院専門修士課程
佐々木賢(ささき・けん)
日本社会臨床学会運営委員
水本正人(みずもと・まさひと)
八幡浜部落史研究会会長 |