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2006.12.07
<人権を大切にしたキャリア教育の実践>
 
人権を大切にしたキャリア教育の実践

若者と社会的排除―進路分化=フリーターの析出過程
2.進路分化と生育家族の階層的背景

 妻木進吾 

1 はじめに

 「大阪フリーター調査」の結果は、生育家族における様々な困難が、不利が不利を呼ぶ形で、困難な状況に生まれ育った若者を不安定就労層としてのフリーターへと押し出しているプロセス、社会的不平等が世代を超えて再生産されるプロセスを描き出した。

本稿の目的は、「大阪フリーター」調査が描き出したこうしたプロセスをふまえつつ、大阪府の高校3年生を対象とした質問紙調査の結果を用いて、高校3年時における予定進路の分化(進学/就職/フリーター)へと至るプロセスを、生育家族の階層的側面から記述していくことにある。

2 課題と方法

「大阪フリーター調査」での知見を検証し、「誰がフリーターになるのか」について詳しく示すためには、生育家族の詳細な把握が望まれる。しかし、今回の調査においては、調査受け入れ校との関係もあり、生活保護の受給の有無や家族構成はもちろん、所得や保護者の学歴、保護者の職に関する直接的な質問項目を設定することはできなかった。

本調査ではそれら階層指標の代替として、文化階層に関する設問を用意した。本報告においてはこの文化階層を中心に議論を進めていく。本報告で用いる文化階層とは、苅谷[2004]等にならい、「家の人はテレビでニュースを見る」「家の人が手づくりのお菓子をつくってくれる」「小さいときに、家の人に絵本を読んでもらった」「家の人に博物館や美術館に連れて行ってもらったことがある」の評定4段階(「とてもあてはまる」〜「あてはまらない」)にそれぞれ4点から1点、「家にパソコンがある」の「はい」に4点、「いいえ」に1点を割り振り、以上の合計得点を「文化階層得点」としたものである。さらに、文化階層得点によって3等分になるように、最小値5〜12点、13〜15点、16点〜最大値20点の3段階分けに分け、それぞれ「下位」「中位」「上位」としたものを「文化階層」とする。以下、この文化階層によって表される生育家族の階層が、小・中・高校の各段階、そして高校3年生時の進路分化にもたらす影響について検討する。

3 生育家族の階層と学校生活・進路分化

(1) 文化階層と他の階層項目との関係

 まず、本報告で用いる文化階層が、他の階層指標とどのような関係にあるのかを確認する。

文化階層と生家の経済的豊かさについての主観的評価との関係を見ると、「かなりゆとりがある」「いくらかゆとりがある」とする割合は、上位61%>中位58%>下位48%と、下位グループほど低い。

文化階層と「家の人は大学を出ているか否か」を尋ねた結果の関係を見ると、大学を出ている割合は、上位51%>中位39%>下位19%と、下位グループほどその割合は顕著に低い。

(2) 文化階層と小・中学校生活

 調査対象者の小学校時代について見る。

文化階層と小学校時の授業内容理解との関係を見ると、「授業内容を理解していた」(「とてもあてはまる」「まああてはまる」)割合は、上位75.5%>中位71.3%>下位64.1%、「信頼できる先生がいた」割合は、上位65.2%>中位59.0%>下位51.4%となっており、いずれも下位グループほど低くなっている。

中学校時代になっても、その傾向は引き続き見られる。

「授業内容を理解していた」(「とてもあてはまる」「まああてはまる」)割合は、上位56.3%>中位53.2%>下位40.7%、「信頼できる先生がいた」割合は、上位60.8%>中位58.7%>下位50.6%となっており、いずれも下位グループほど低くなっている。

授業内容理解の結果は、小学校という早い段階から、文化階層上の位置に対応した学力差が生じていることを示していると考えられる。また、「信頼できる先生」に関する文化階層による差異は、学校・教員が低階層の子どもの成功を阻害する不平等の再生産の担い手となっているという先行研究(1)を踏まえれば、教員の処遇の違いから生じているのではないかとも考えられる。そして、このような低い文化階層的背景を持つ層が学校において排除(周辺化)されがちである傾向は中学校においても継続している。

また、中学校時点で、高卒後の進路をどのように考えていたのかを見ると、大学・短大に進学しようと考えていた割合は、上位40.1%>中位33.3%>下位20.9%と下位グループほど低く、就職しようと考えていた割合は上位14.3%<中位27.3%<下位30.5%と下位グループほど高くなっている。

(3) 文化階層と高校生活

 小学校・中学校における低学力、そして将来展望は、どのようなランク/タイプの高校に入学できるか/するかを強く規定する(次ページ表1)。

調査対象者が在学中の高校のランク/タイプを「準進学校」「中間校」「商業校」「進路多様校」に分けると、「準進学校」の割合は上位30.2%>中位21.0%>下位7.4%と上位グループほど高く、「進路多様校」の割合は上位24.4%<中位30.9%<下位44.4%と下位グループほど高い。生育家族の文化階層によって進学する/できる高校ランク/タイプが大きく方向づけられていることが確認できる。

このように文化階層上の位置に大きく規定された高校への振り分けがなされるのであるが、小学校・中学校で見られた傾向は、高校段階でも継続している。「授業内容を理解していた」(「とてもあてはまる」「まああてはまる」)割合は、上位50.8%>中位46.2%>下位41.3%、「信頼できる先生がいた」(「とてもあてはまる」「まああてはまる」)割合は、上位56.4%>中位37.0%・下位37.9%となっており、いずれも下位グループほど低くなっているのである。

 次に、文化階層と高校時代に熱心に取り組んだこととの関係を見ると、「学校でのクラブ活動」の割合は上位46.9%>中位37.1%>下位25.9%、「学校行事」の割合は上位49.2%>中位43.2%>下位36.7%と上位グループほど高く、「アルバイト」の割合は上位36.9%<中位41.1%<下位53.8%と下位グループほど高くなっている。上位グループほどクラブ活動や学校行事という「学校内の活動」に熱心に取り組み、下位グループほどアルバイトという「学校外の活動」に熱心に取り組んでいる。

また、「髪の毛を染める」「タバコを吸う」「先生に反抗する」といった、学校的価値からは「逸脱的」とみなされる行為を「よくする」「たまにする」割合は、いずれも下位グループほど高くなっている。

授業内容を理解できず、信頼できる先生もいないという、学校における排除(周辺化)状態に加えて(あるいはそれを原因もしくは結果とする形で)、少なくとも高校段階になると、文化階層下位グループほど学校での生活、学校的価値から離脱していく傾向が顕著に見られるようになる。

下位グループほどアルバイトという「学校外の活動」に熱心に取り組んでいる傾向を先に確認したが、その傾向に対応する形で、高校時代のアルバイト経験率は上位66.2%<中位78.1%<下位82.7%と下位グループほど高く、下位グループにおける経験率は8割を超えている。また、アルバイト期間を見ると、上位・中位グループの平均17ヶ月に対して、下位グループでは平均20ヶ月に及んでいる。

 文化階層とアルバイト開始理由の関係を見ると、「社会経験をしたかったから」の割合は、上位38.7%・中位37.7%>下位26.8%、「やりたい内容の仕事があったから」の割合は、上位9.5%>中位7.2%>下位4.4%と、いずれも上位グループで高くなっている。一方、「家計を助けるため」の割合は、上位18.4%・中位18.1%>下位26.8%と下位グループで高くなっている。「社会経験」や「やりたい仕事」としてアルバイトを始める上位グループに対して、下位グループにおいては、「家計を助けるため」という、半ばやらざるを得ないものとしてアルバイトが始められがちである。

アルバイト収入の使い途においても文化階層による違いが見られる。「あそび」に使う割合が上位81.6%<中位83.2%<下位88.5%と下位グループほど高い傾向も見られるが、「家計の助け」に使う割合についても、上位15.4%<中位18.3%<下位23.1%と下位グループほど高くなっているのである。

(4) 文化階層と保護者のコントロール

 文化階層と、保護者が調査対象者にどのように接したり、期待したりしているかを尋ねた結果との関係を見る。

「(保護者は)あなたの日ごろの生活態度について、注意する」について「とてもあてはまる」「まあまああてはまる」とする割合は上位69.0%>中位58.5%>下位53.8%、「(保護者は)あなたの将来について、話をする」について「とてもあてはまる」「まあまああてはまる」とする割合は上位76.3%>中位66.9%>下位53.6%と、いずれについても下位グループほど低くなっている。これらは、保護者の子どもに対するコントロール、方向付けの弱さ、機能不全を表していると考えられる。

そのような傾向は、例えば「保護者に無断で外泊する」について「よくする」「たまにする」と回答する割合が、上位12.9%<中位16.6%<下位21.5%と、下位グループほど高くなっていることからも確認される。

保護者の子どもに対するコントロール、方向付けの弱さ、機能不全、そして、小学校段階から高校に至るまで一貫している信頼できる教員の不在。これらの結果として、「進路について相談できる相手がいなかった」について「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答する割合は、上位21.3%<中位29.5%<下位37.2%と下位グループほど高くなっている。

(5) 文化階層と高卒後の進路分化

 生育家族の文化階層の低さから始まり、小学校・中学校段階からの低学力・教員不振に見られる学校における排除、階層化された高校へのふるい分け、高校においても継続することになる低学力・教員不振に見られる学校における排除、学校からの離脱を食い止める保護者・教員のコントロールの弱さ・機能不全、そして生育家族の経済状況が促す学校からの離脱。このようなプロセスを経て、また保護者や教員の進路についての方向付けの弱さ・機能不全の結果、高校3年生段階で示される高卒後の進路予定は次のようになる(次ページ表2)。

「進学」の割合は、上位74.3%>中位66.1%>下位48.8%と上位グループほど顕著に高い。「就職」の割合は上位18.8%<中位20.5%<下位33.4%、「フリーター」の割合は上位6.9%<中位13.5%<下位17.8%と、下位グループほど高い。高校卒業時の進路分化において生育家族の文化階層的背景が大きな影響を持っていることが確認される。

 また、「進学」者の進学(予定)先を見ると、「四年制大学」の割合は上位48.6%>中位41.6%>下位34.6%と上位グループほど高く、「専門学校」の割合は上位39.9%<中位44.3%<下位52.0%と下位グループほど高くなっている。

4 おわりに

 「大阪フリーター調査」で見いだされたフリーター析出のプロセス?生育家族の困難が低学力・低学歴・不安定就労という形で若者自身の困難へと変換/移転され、不利が不利を呼ぶ形で困難が重層化していくプロセス?が、これまでの文化階層と進路分化の検討からも浮かび上がる。

 ただし、文化階層によって有意な差異が見られるのは、進学か否かであって、非進学層(「就職」「フリーター」)を取り出し、文化階層との関係を見ても有意な差は見られない。「生家の暮らし向き」「家の人は大学を出ているか」といった(階層)指標で見ても同じである。非進学層の就職かフリーターかという進路分化は、本報告で用いた「文化階層」変数によって説明することはできない。この非進学層の就職かフリーターかという進路分化については、第3報告、第4報告で検討される。

 とはいえ、1992年では3.32倍であった求人倍率は、2003年3月時点で0.90倍にまで落ち込んでいる状況において、非進学という進路選択はフリーターとしての析出と強く結びついているのであり、その意味でフリーターの析出において生育家族の文化階層が大きな影響を持っていることは確認されるべきであろう。

<参考文献>

  • 苅谷剛彦、2004「『学力』の階層差は拡大したか」、苅谷剛彦・志水宏吉編『学力の社会学?調査が示す学力の変化と学習の課題』、岩波書店
  • 小杉礼子、2003、『フリーターという生き方』、勁草書房
  • 妻木進吾、2005、「本当に不利な立場に置かれた若者たち?フリーターの析出に見られる不平等の世代間再生産」、部落解放・人権研究所編、『排除される若者たち?フリーターと不平等の再生産』(P24ー65)、解放出版社
  • 部落解放・人権研究所編、2005、『排除される若者たち?フリーターと不平等の再生産』、解放出版社
  • 鍋島祥郎他、2005、『学校効果調査2004報告』、大阪市立大学人権問題研究センター
  • 西田芳正、1996、「不平等の再生産と教師 教師文化における差別性をめぐって」、八木正編、『被差別世界と社会学』、明石書店
  • 耳塚寛明、2001、「高卒無業者の漸増」、矢島正美・耳塚寛明編、『変わる若者と職業世界?トランジッションの社会学』、学文社
  • 耳塚寛明、2002、「誰がフリーターになるのか?社会階層的背景の検討」、小杉礼子編、『自由の代償/フリーター?現代若者の意識と行動』、日本労働研究機構
  • 耳塚寛明、2005、「揺れる学校の機能と職業社会への移行?教育システムの変容と高卒無業者」、社会政策学会編、『若者?長期化する移行期と社会政策』、法律文化社
(1) 例えば西田[1996]を参照。