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2006.12.07
<人権を大切にしたキャリア教育の実践>
 
人権を大切にしたキャリア教育の実践

若者と社会的排除―進路分化=フリーターの析出過程
3.進路分化と学校生活

 菅野正之

1 はじめに

 

本稿の目的は、大阪府の高校3年生を対象とした質問紙調査の結果を用いて、高校卒業時における「進学」「就職」「フリーター」への進路分化を、高校生の学校生活との関係から検討することにある。

 「高校生の学校生活」といっても、その構成要素は多様である。さらに、とりわけ「フリーター」予定者の生活の特徴として、学校生活へのコミットメントが低く、アルバイトや「遊び」など学校以外の場面における生活を重視する傾向が先行研究で指摘されている(耳塚2001、小杉2003など)。そこで本章では、「高校における生活」と「学校外での生活」の両側面から、高校生の生活の全体像を予定進路別・学校タイプ別に検討することを第一の課題とする。

また、第二の課題として、学校生活のうち、とくに進路準備活動や高校で行われる進路指導について取り上げる。高校生の進路決定プロセスには、学校における指導が大きく影響を及ぼす。また、学校における進路指導や生活指導の実態は、各学校の特徴によって大きく異なることが想像される。そこで進路準備活動への取り組みを予定進路別に検討した上で、学校の規則に関する生徒の認識や中学校時点の進路展望を通して、学校タイプによる指導の差異を明らかにし、学校の指導と進路分化との関連を検討していきたい。

2 高校生活の全体像

 最初に、問18「高校生活全体を通して、あなたが熱心にとりくんだこと」を検討する。この項目は、学校内/外の生活場面を10の選択肢として提示し、あてはまるもの(「熱心にとりくんだもの」)すべてに○をつける形式をとっている。分析の方法は限定されるが、高校生活の全体像を把握することが可能な項目となっている。

この問18と、高校生の予定進路をクロスさせたのが表1(次ページ)である。このうち、「勉強」「学校でのクラブ活動」「学校行事」といった学校における生活について、「熱心にとりくんだ」と回答した割合は「進学」予定者で高く「フリーター」予定者で低い。逆に「アルバイト」や「彼氏/彼女とのつきあい」といった、学校以外の場面での生活を「熱心にとりくんだ」とする割合は、「フリーター」予定者で高くなっている。

表1 予定進路*「高校生活全体を通して熱心に取り組んだこと」(MA)           (%)

 

進学

就職

フリーター

合計

勉強

25.8

13.7

2.3

20.0

学校でのクラブ活動

46.8

27.3

7.6

37.3

学校行事

47.2

40.1

33.1

43.7

仲間との遊び

63.8

73.9

80.8

68.4

学校外での趣味やスポーツ活動

22.4

18.0

15.1

20.4

彼氏/彼女とのつきあい

19.4

31.4

38.4

24.6

アルバイト

34.3

52.5

64.5

42.4

ボランティア活動

4.6

1.2

1.5

3.4

その他

1.5

2.8

4.1

2.1

とくにない

5.7

3.7

3.5

5.0

(N)

(871)

(293)

(172)

(1365)

また、学校タイプとの関係をみると(表2)、学校における生活では、「準進学校」で「熱心にとりくんだ」と回答した者の割合が高く、「進路多様校」で低い。逆に、学校以外における生活では、「準進学校」で「熱心にとりくんだ」割合が低く、「中間校」「商業校」「進路多様校」で高い。

表2 学校タイプ*「高校生活全体を通して熱心に取り組んだこと」(MA)   (%)

 

準進学校

中間校

商業校

進路多様校

合計

勉強

30.4

19.9

19.6

12.7

19.5

学校でのクラブ活動

73.6

36.2

32.4

18.5

36.7

学校行事

50.7

50.8

51.4

26.9

43.1

仲間との遊び

59.3

74.0

66.4

71.6

68.0

学校外での趣味やスポーツ活動

23.6

24.8

18.4

18.3

20.5

彼氏/彼女とのつきあい

11.4

29.3

25.4

29.7

24.7

アルバイト

14.3

47.6

51.4

48.7

42.5

ボランティア活動

3.2

7.3

0.5

4.1

3.4

その他

1.1

1.6

2.9

2.8

2.3

とくにない

5.4

4.5

3.4

7.1

5.2

(N)

(262)

(246)

(414)

(464)

(1404)

 このように、「高校生活」は、予定進路や学校タイプによって、その構成要素や重心の置き方が大きく異なる。とりわけ、「フリーター」予定者や「進路多様校」の生徒は、クラブ活動や学校行事といった学校における生活からは距離をとり、学校以外の場面での生活に重心を置いていることが明らかとなった。

学校外での生活について、とりわけ顕著な差がみられるのがアルバイト経験である。問16では「あなたは高校に入学してから現在まで、アルバイトをしたことがありますか」をたずねている。予定進路によるアルバイト経験率の差は、「進学」67.6%<「就職」85.4%<「フリーター」96.5%と、「フリーター」予定者ではほとんどの者がアルバイト経験を有している。また学校タイプ間による差は、「準進学校」42.2%<「中間校」81.7%、「商業校」86.5%、「進路多様校」82.8%と、「準進学校」以外では大半の生徒がアルバイトを経験している。

また、アルバイト経験者を対象に、a)「高校に入学してからアルバイトをしていた期間」と、b)アルバイトをしているときに、平均して1ヶ月にどのくらいのお金をもらっていましたか」を尋ねている。a)*b)により、高校生活におけるアルバイト「総所得」が把握される。予定進路別では、「進学」780,530円<「就職」1,085,076円<「フリーター」1,175,878円(F値29.481**)となる。ここから、同じアルバイト経験者のなかでも、「就職」予定者や「フリーター」予定者が、アルバイト生活へより強く包摂されているといえる。

3 進路準備活動

表3は、問6「あなたは今までに、卒業後の進路を決める準備として、次のようなことをしたことがありますか」(MA)と予定進路とのクロス表である。「進学」予定者は「学校見学」「過去問」「進学受験」「模擬試験」といった進学準備を、「就職」予定者は「求人票閲覧」「就職受験」「模擬面接」といった就職準備を進めている生徒が大半であるのに対し、「フリーター」予定者では「とくに何もしなかった」が26.7%にのぼる。

「フリーター」予定者は、学校における生活から距離をとっていると先に指摘したが、学校を中心におこなわれる進路準備活動からも距離をおいているといえよう。

表3 予定進路*進路準備活動(MA)     (%)

 

進学

就職

フリーター

合計

自分の生き方や仕事について考える授業やホームルームを受けた

49.7

45.1

38.8

47.2

就職情報誌・アルバイト情報誌を買った

8.5

24.4

27.9

14.7

学校に来ている求人票を見た

8.1

84.0

34.5

29.4

インターンシップや職場見学をした

9.2

26.2

6.1

12.9

会社の就職試験を受けた

0.7

67.9

9.7

17.9

公務員試験を受けた

1.4

4.0

2.4

2.1

公務員試験・就職試験の過去問を見た

3.6

18.5

6.7

7.5

学校見学・オープンキャンパスに行った

79.4

17.3

30.3

58.6

大学・短大・専門学校入試の過去問を見た

49.8

2.5

6.1

33.1

大学・短大・専門学校を受験した

64.0

1.2

2.4

41.5

塾や予備校にかよった

23.8

1.9

0.0

15.6

高校で模擬面接をうけた

31.3

52.5

20.0

35.0

模擬試験をうけた

38.7

10.2

3.6

27.6

その他

1.8

1.9

0.0

1.6

とくに何もしなかった

2.4

4.6

26.7

5.9

(N)

(866)

(324)

(165)

(1355)

4 学校タイプと進路指導

(1) 学校の規則に対する生徒の認識

 表4(次ページ)は、問4のI「学校の規則がきびしすぎると思う」の回答について、「まったくあてはまらない」〜「とてもあてはまる」の4件法の選択肢にそれぞれ0〜3を与え、各カテゴリー別にその平均値をしめしたものである。

 予定進路別にみると(表右列の「合計」)、「進学」1.48<「就職」1.61<「フリーター」1.84と、「フリーター」予定者が特に学校の規則を「厳しい」と感じていることがわかる。学校生活から離れがちな「フリーター」予定者にとって、「学校生活」的な規則も疎ましく感じられるのだろう。

また、学校タイプ別にみると(表下行の「合計」)、「商業校」(2.05)や「準進学校」(1.80)で平均値が高く、「中間校」(1.18)や「進路多様校」(1.15)では低い。この項目は、直接的には規則に対する生徒の認識をたずねた質問であるが、学校タイプによる明確な差異は、学校における指導の「強弱」を反映していると捉えられる。

 さらに、学校タイプ別に、予定進路と「学校の規則がきびしすぎる」という認識との関係をみると、「商業校」と「進路多様校」でそれぞれ差がみられる。とりわけ「商業校」の「フリーター」予定者は、平均値が2.60と非常に高い。

表4 学校タイプで統制した進路分化*「学校の規則がきびしすぎる」 

 

準進学校

中間校

商業校

進路多様校

合計

平均値

(度数)

平均値

(度数)

平均値

(度数)

平均値

(度数)

平均値

(度数)

進学

1.80

(274)

1.13

(194)

1.93

(181)

1.00

(221)

1.48

(870)

就職

1.67

(3)

1.30

(30)

1.98

(163)

1.20

(127)

1.61

(323)

フリーター

2.00

(3)

1.56

(16)

2.60

(57)

1.43

(96)

1.84

(172)

合計

1.80

(280)

1.18

(240)

2.05

(401)

1.15

(444)

1.55

(1365)

F値

.76

2.233

10.655**

6.373**

8.843**

 各学校タイプのうち、ここでは「商業校」に着目したい。「商業校」では生徒に対する指導を「強く」行っており、とりわけ「フリーター」予定者はそれを「厳しい」ものとして捉えているようだ。それでは、どのような指導が行われているのか。前項でみた問6「進路準備活動」を学校タイプ別にみると、例えば、「高校で模擬面接を受けた」と回答した生徒は、「準進学校」22.2%、「進路多様校」28.4%、「中間校」37.4%に対して、「商業校」では47.8%と、その割合が高い。さらに「就職」予定者のみを取り出しても、「商業校・就職予定者」64.6%>「進路多様校・就職予定者」39.4%と、同様の傾向が見られる(いずれも表は省略)。

 今回の調査データから直接明らかにすることはできないが、ここまでみてきた「模擬面接」の実施状況や、「学校の規則がきびしすぎる」とする生徒の認識などから、「商業校」では進路指導とあわせて、いわゆる「生活指導」も「強く」行われていることが想像される。先行して行った「大阪フリーター調査」では、商業校の事例ではないが、就職指導に伴う「生徒指導」(髪の毛の色、化粧、スカートの丈など)を「うざい」と感じ、「学校からの就職はせえへん」と宣言して教師の指導にまったくのらず、「フリーター」へと移行した女性の事例が得られた。とりわけ「商業校」における「フリーター」予定者は、学校が就職や進学のために行っている「強い」進路指導や生徒指導に対して〈のらない〉層、あるいは〈おりた〉層としてとらえられる。

(2) 中学校時点における高卒後進路展望

最後に、問3「中学生のころ、高校を卒業したらどのような進路にすすみたいと思っていましたか」をとりあげたい。表5(次ページ)は、この項目について学校タイプで統制した予定進路別の三重クロス表である。「準進学校」生徒の82.1%、「中間校」生徒の69.6%が、中学校時点において、高校卒業後の「進学」を展望していたことが確認できる。さらに、その大多数が、その展望通り、高校卒業後の「進学」を予定している。

他方、「商業校」では全体の46.9%が、中学時点では、高校卒業後の「就職」を展望していた。現在の予定進路別にみると、「進学」予定者の34.6%、「フリーター」予定者の43.6%が、中学校時点において「就職」を展望していた。「進路多様校」では、中学時点では進路を考えていなかったとする者が25.4%と、他の学校タイプと比較して高い。現在の予定進路別にみると、「進学」層では29.8%が中学時点「考えていなかった」である。また「フリーター」層では、中学時点からすでに「フリーター」を展望していた者が14.9%存在している。

表5 学校タイプで統制した進路分化*中学時の高卒進路希望  数値は%

中学時の高卒進路希望

(N)

進学

就職

フリーター

考えていなかった

その他

準進学校

進学

82.5

2.6

1.1

13.8

 

(268)

就職

66.7

33.3

 

(3)

フリーター

66.7

33.3

 

 

 

(3)

82.1

2.9

1.1

13.9

 

(274)

中間校

進学

73.3

6.7

1.0

18.5

0.5

(195)

就職

51.7

41.4

3.4

3.4

(29)

フリーター

56.3

6.3

6.3

31.3

 

(16)

69.6

10.8

1.3

17.5

0.8

(240)

商業校

進学

48.0

34.6

1.7

14.0

1.7

(179)

就職

22.1

61.3

1.2

12.9

2.5

(163)

フリーター

27.3

43.6

3.6

20.0

5.5

(55)

34.5

46.9

1.8

14.4

2.5

(397)

進路多様校

進学

57.3

9.6

2.3

29.8

0.9

(218)

就職

29.8

46.3

0.8

19.8

3.3

(121)

フリーター

31.9

28.7

14.9

22.3

2.1

(94)

44.1

24.0

4.6

25.4

1.8

(433)

中学時点の進路展望を、高校入学時点における進路展望ととらえると、現在の予定進路と比較することで、進路希望の変化をうかがうことができるだろう。その結果、「商業校」において、とりわけ多くの「就職からの撤退」があったことが明らかである。

この撤退要因としては、高卒労働市場の逼迫が第一にあげられるだろう。とりわけ「商業校」の就職として想定される「女子・事務職」は、派遣社員との代替にみられるような雇用の非正規化・高学歴化の影響を強く受けているセクターだと考えられる。このような「高卒就職」の状況に直面し、「就職からの撤退」にいたったと想像される。

 もうひとつの撤退要因としては、前項で見た、「商業校」における「強い」指導があげられる。推薦による「進学」のため、あるいは極めてきびしい状況に置かれている「高卒就職」を実現するため、「商業校」では「強い」進路指導が行われている。その指導は、当然のことながら、生徒の進路を保障するために行われているが、そこに〈のらない〉こと、つまり進路指導や生徒指導から「撤退」することが「就職からの撤退」につながり、残された進路である「フリーター」へと移行する、そのような矛盾した状況が「商業校」にはあると考えられる。

<参考文献>

  • 小杉礼子、2003、『フリーターという生き方』、勁草書房
  • 耳塚寛明、2001、「高卒無業者の漸増」、矢島正美・耳塚寛明編、『変わる若者と職業世界』、学文社