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2006.12.07
<人権を大切にしたキャリア教育の実践>
 
人権を大切にしたキャリア教育の実践

若者と社会的排除―進路分化=フリーターの析出過程
4.進路分化とモデル・ジェンダー・ネットワーク

 内田龍史 

 1 はじめに ― 「大阪フリーター調査」の知見から ―

 「大阪フリーター調査」によれば、社会的に不利な立場に置かれた無業・失業・フリーター状況にある若者たちの社会関係の特徴として、達成モデルの限定などから示唆される、組み込まれているネットワークの同質性・閉鎖性があげられる。このようなネットワークの存在が、若者たちの進路達成に大きく影響を与えていた。

「大阪フリーター調査」の対象となった、低学歴少数者として労働市場への参入障壁に直面せざるをえないフリーター・無業の若者の社会関係の特徴として、大学生やサラリーマンなどの達成モデルは縁遠い存在だということがあげられる(内田,2005a)。逆に、彼/彼女らにとって身近な存在は、建設現場・工場労働などのブルーカラー労働者やアルバイト・フリーター層であった。周囲の達成モデルに見られるような閉鎖的なネットワークのありようは、若者の進路決定に大きな影響を与えると予測されることから、身近な人間関係においてブルーカラー労働者やフリーターが多い層がフリーターになりやすいと考えられる。

また、女性に限定すると、彼女らの将来達成展望として多く語られたのは、典型的な女性役割である専業主婦志向であり、さらにはできるだけ早く結婚したいという早婚願望があげられる(内田,2004:2005b)。低学力・低学歴など、不利な立場であるが故に男性と比較してより職業的な地位達成を展望することができないがために、異なる達成モデルとして、彼女らは結婚に早期に水路づけられることとなる。同時に、そうした傾向に拍車をかけるのが、彼女らが組み込まれているネットワークであり、ピア・プレッシャーである。彼女らの周囲に存在する多くの女性は、結婚願望が強く、実際に若くして同棲する、結婚するなどしていた。そのため、そもそも正社員として就業することは目指されず、結果としてフリーター・無業者として析出されていたのである。そこで、性役割意識を強く持つ、専業主婦を志向する、早婚願望が強い女子が、フリーターになりやすいと考えられる。

以下では、これらの仮説が、本調査においても確認できるかどうか、検討を行う。

2 進路意識調査から<1>
― 周囲のモデルに見る、組み込まれているネットワーク ―

(1) 周囲のモデル・ネットワーク構造

 本調査では、調査対象者が組み込まれているネットワーク構造を把握するために、周囲にどのような人がいるのかを把握した。問いは、「あなたの家族や親せき、友人や先輩、あるいは近所の人に、以下のような人はいますか。「いる」「いない」それぞれのらんに○をしてください」というものであり、「大阪フリーター調査」の知見から導き出された、社会的に不利な立場に置かれた若者たちの周囲に多い、あるいは少ないと推測される人々が、調査対象者の周囲にいるのかどうかをたずねたオリジナルの項目である(1)。なお、ここで把握できるのはあくまでも調査対象者による認識レベルのものであるが、進路分化への影響を把握するためには、主観的に組み込まれているネットワークの質的差異を明らかにすることがより重要であると考えられる。また、この質問項目では、ネットワークの広がりそのものを問うことはできていないため、「社会的排除」の一形態として考えられる、「孤立」など、社会関係の希薄さについては把握することができないという限界があることをお断りしておく。

項目としてあげられているのは「医者・弁護士・学校の先生」「建設現場で働く人(トビ・大工・土木作業員)など」「工場の生産現場で働く人」「子どもを育てながら正社員として働いている女性」「サラリーマン(スーツ姿で働いている男性)」「自分でお店・工場を経営している人(社長)」「10代で結婚した人」「シングルマザー(母親だけで子育てをしている人)」「専業主婦」「大学生・大学を卒業した人」「パートで働いている主婦」「フリーター(学生や主婦でないパート・アルバイト)」である(次ページ表1)。

上述したそれぞれの人々について、「家族・親せき」「友人・先輩」「近所の人」それぞれについて「いる」を1点とし、「いない」を0点として、足し算したものを身のまわりのモデル得点とした(次ページ表2)。なお、身のまわりのモデル得点は、学校タイプによって顕著な違いが見られる。「医者・弁護士・学校の先生」「サラリーマン(スーツ姿で働いている男性)」「専業主婦」「大学生・大学を卒業した人」などは「準進学校」(あるいは「進学校」)、「建設現場で働く人(トビ・大工・土木作業員)など」「工場の生産現場で働く人」「10代で結婚した人」は「進路多様校」、「子どもを育てながら正社員として働いている女性」「自分でお店・工場を経営している人(社長)」「シングルマザー(母親だけで子育てをしている人)」「パートで働いている主婦」「フリーター(学生や主婦でないパート・アルバイト)」は「商業校」で多い。

続いて、彼/彼女らが組み込まれているネットワーク構造を把握するために、身のまわりのモデル得点について主成分分析を行った。その結果、それぞれのモデル得点は2つの「主成分」に要約できた(次ページ表3)。

第一主成分は、「建設現場で働く人(トビ・大工・土木作業員)など」「10代で結婚した人」「シングルマザー(母親だけで子育てをしている人)」「フリーター(学生や主婦でないパート・アルバイト)」などで主成分得点が高いことから、「不安定・ブルーカラー」得点と名づける。この得点の高さは、身のまわりにいる「不安定・ブルーカラー」層の多さであるとの解釈が可能である。

表1 調査票の構成

表2 身のまわりのモデル得点の平均値(学校別)

表3 身のまわりのモデル得点の主成分

第二主成分は、「大学生・大学を卒業した人」「サラリーマン(スーツ姿で働いている男性)」「専業主婦」「パートで働いている主婦」「医者・弁護士・学校の先生」などで主成分得点が高いことから、「安定・ホワイトカラー」得点と名づける。この得点の高さは、身のまわりにいる「安定・ホワイトカラー」層の多さであるとの解釈が可能である。

(2) 組み込まれているネットワークと進路分化

 表4は、それぞれの主成分と進路分化との分散分析の結果を示している。

「不安定・ブルーカラー」と進路分化では、「不安定・ブルーカラー」得点は「フリーター」で最も平均点が高く、「就職」が次に続き、「進学」が最も得点が低い。逆に、「安定・ホワイトカラー」と進路分化では、「安定・ホワイトカラー」得点は「進学」で最も平均点が高く、「就職」が次に続き、「フリーター」で最も得点が低い。

表4 進路分化と身のまわりのモデル主成分得点の平均値

不安定・ブルーカラー

安定・ホワイトカラー

就職(N=289)

0.274

-0.072

進学(N=774)

-0.238

0.121

フリーター(N=144)

0.596

-0.449

合計(N=1207)

-0.016

0.007

F値

 65.036**(2)

21.620**

 以上、フリーターを高卒後の進路として展望する層の周囲には、不安定・ブルーカラー層が多く、安定・ホワイトカラー層が少ないと認識されている傾向が明らかとなった。周囲のモデルから示唆される、組み込まれているネットワークの差異は、進学/就職/フリーターという進路選択に影響を与えていると言えよう。

3 進路意識調査から<2> ― ジェンダ ―

 ジェンダーとの関連では、女性のみを対象とし、分析を行う。

(1) ジェンダーと進路分化<1> ― 性役割意識 ―

性役割意識についてたずねた項目について、「女の子は「女らしく」、男の子は「男らしく」育てたほうがよい」「男性にふさわしい職業、女性にふさわしい職業がある」「子育ては母親がしたほうがよい」「男性は、結婚するときには正社員になっておくべきだ」については、「そう思う」4点〜「そう思わない」1点、「女性も男性と同じくらい経済的に自立すべきだ」については「そう思わない」4点〜「そう思う」1点とし、すべて足し算して性役割意識得点とした。

性役割意識得点と進路分化との分散分析を行うと、性役割意識が最も強いのは「フリーター」層であり、最も低いのは「進学」層である(次ページ表5)。「フリーター」層は、最も性役割意識が強いと言える。

表5 進路分化と性役割意識得点の平均値

全体(女子)

性役割意識

就職(N=236)

11.8

進学(N=490)

11.1

フリーター(N=139)

12.2

合計(N=865)

11.5

F値

11.076**

(2) ジェンダーと進路分化<2> ― ライフコース展望 ―

専業主婦志向を検討するために、将来「結婚したい」あるいは「どちらともいえない」と回答した層(「結婚したい」81.2%、「どちらともいえない」13.4%)に対し、自身のライフコース展望を、結婚してもずっと仕事を続ける「仕事派」(24.6%)、子どもができたら仕事を辞め子どもに手がかからなくなってから再び働く「再就職派」(54.2%)、結婚した後、子どもができた後、あるいははじめから専業主婦になるとする「家庭派」(20.4%)の3つに分類し、分析を行うことにした(表6)。

表6 女性のライフコース展望(女子)

度数

仕事派

214

24.6%

再就職派

471

54.2%

家庭派

177

20.4%

無回答

7

0.8%

合計

869

100.0%

 女性のライフコース展望と進路分化とのクロス集計を行うと、仕事派では「進学」の割合が他の層と比較して最も高く、家庭派では「就職」「フリーター」の割合が高い(表7)。仕事での達成を展望しない層で、高卒就職、あるいはフリーターを選択している割合が高いということである。

表7 女性のライフコース展望と進路分化(女子・全体)

(3) ジェンダーと進路分化<3> ― 早婚願望 ―

早婚願望を把握するために、将来「結婚したい」と回答した層には結婚したい年齢を実数でたずねている。

結婚したい年齢の平均と進路分化との関係(次ページ表8)では、「進学」24.0歳>「就職」22.5歳>「フリーター」22.1歳の順となっており、やはり「フリーター」志望層は早婚願望が強いと言えよう。

表8 進路分化と結婚したい年齢の平均値

結婚年齢

就職(N=190)

22.5

進学(N=384)

24.0

フリーター(N=116)

22.1

合計(N=690)

23.2

F 値

45.542**

なお、結婚したい年齢と「身のまわりの人」得点のうちの「10代で結婚した人」得点とのあいだには有意な負の相関(-0.199**)が、また、「不安定・ブルーカラー」得点とのあいだにも有意な負の相関(-0.169**)が見られる。すなわち、周囲に「10代で結婚した人」、「不安定・ブルーカラー」層が多いほど、結婚したい年齢が低い傾向が見られる。早婚願望の背景に、彼女らが組み込まれているネットワークの存在を指摘することができる。

4 おわりに

以上の結果から、「大阪フリーター調査」から導き出された仮説はおおむね確認できた。本調査においてフリーター予定であるものは、周囲に「不安定・ブルーカラー」層が多く、「安定・ホワイトカラー」層が少ないことが明らかとなった。また、特に女子の場合、他の層と比較して性別役割意識が強固であり、早婚願望が強かった。その背景にも周囲に「不安定・ブルーカラー」層が多いという、ネットワークの存在が浮かび上がる。家庭の文化階層の違いや学校からの排除だけではなく、若者がどのようなネットワークに組み込まれているかが、将来達成に大きな影響を与えている。

<参考文献>

  • Lin,Nan,2001,Social Capital; A Theory of Social Structure and Action. Cambridge.
  • 西田芳正、2001、「部落の生活様式—その継承と変化」、部落解放・人権研究所編、『部落の21家族—ライフヒストリーからみる生活の変化と課題』(P175-226)、解放出版社
  • 西田芳正、2005、「遊びと不平等の再生産—限定されたライフチャンスとトランジッション」、部落解放・人権研究所編、『排除される若者たち—フリーターと不平等の再生産』(P86-115)、解放出版社
  • 内田龍史、2004、「社会的に不利な立場に置かれたフリーターとジェンダー」、『部落解放研究』第160号(P18-32)
  • 内田龍史、2005a、「強い紐帯の弱さと強さ—フリーターと部落のネットワーク」、部落解放・人権研究所編(P178-199)
  • 内田龍史、2005b、「ジェンダー・就労・再生産—社会的に不利な立場に置かれたフリーター女性の語りから」、部落解放・人権研究所編(P66-85)

(1) このようなネットワークや社会関係資本の測定に関しては、GSSなどに用いられているネーム・ジェネレーター法や、Linら最初に用いた地位・ジェネレーター法などがある(Lin,2001)。本調査では「大阪フリーター調査」の経験に即して調査項目を作成したが、どのような人がいるのかを選択肢として用意するというその発想は、地位・ジェネレーター法(質問項目に用意された職業について、ファースト・ネームで呼び合う関係の人がいるかどうか答える)に近い。

(2) **は1%未満、*は5%未満で有意。以下同。