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2007.08.14

部落の所在地暴く「サイト」

2007年4月2日 第2313号

 【愛知】インターネット上に、愛知県内の多くの部落や三重、岐阜両県内の一部の部落について、写真や動画と、地図を付けた新たな「電子版・部落地名総鑑」ともいえる悪質きわまりない差別ウェブサイトがあることが2月にわかった。対応を協議してきた愛知県連では3月14日、同サイトを「名誉毀損」で愛知県警に告発、受理された。

 部落差別を否定するかのように装った記述を最初の画面に入れながら、同サイトの中身は差別煽動そのもの。とくに詳細な部落所在地の掲載は、近年あいついで発覚している結婚・就職時の差別身元調査や不動産取引にかかわる部落差別の現実からも深刻な被害が出るもので、とうてい看過できない。

 同サイトは名古屋法務局によって昨年12月と今年2月の二度にわたって削除され、現在は存在しない。しかし、インターネットの特性上、流された差別情報の回収は不可能に近く、膨大な被害が予想される。同サイトを作成した犯人は逮捕されておらず、政府が差別を裁く立法を怠りつづけるなか、同サイトの再開予告の書き込みも発見されており、犯人の特定と法制度の整備は一刻を争う緊急の課題になっている。

差別ウエブサイトを告発

画像入りで部落暴き
 「名誉毀損」糸口に愛知県警に

 写真や動画、地図入りのあらたな「電子版・部落地名総鑑」ともいえる差別ウェブサイトについて対応を協議してきた愛知県連では3月14日午前、やむなく同サイトを「名誉毀損」で愛知県警に刑事告発し、受理された。
 告発した14日の午後2時には名古屋市内で記者会見をひらき、告発人である愛知県連から、吉田勝夫・委員長、山崎鈴子・書記次長ら4人と告発人の代理人を務める石堂巧卓・弁護士、浅井得次・弁護士が参加した。

地図や写真 動画もつけて


 参加した多くのメディアにたいし、県警の捜査二課に告発状を提出し、受理された状況を浅井弁護士が報告し、2月6日に愛知県連がダウンロードして保存した同差別サイトの内容をパソコンの画面に写しながら、山崎書記次長が解説した。告発にいたった経緯や、同差別サイトの悪質さを報告し、急速な技術発達とともに大きく拡大し悪質化している部落差別の現実と、「人種差別撤廃条約」の完全批准・法整備を怠り、差別を野放しにしている政府の怠慢を社会に訴えた。

 同サイトは紙に印刷すると320ページにもおよぶ膨大なもの。表紙ページは、名古屋市内のある部落の写真を地名入りで載せ、その写真を背景に、左胸に荊冠旗と「BKD」の文字(部落解放同盟の略と思われる)を入れた丸いロゴを、右胸には部落解放同盟のローマ字表記を入れた服を着た漫画の女性が、差別を否定するセリフをいっている画像が入れられている。下には、「おかげさまで4444Hit」の文字。写真下の「Read Me」(読めの意)、「Profile」(自己紹介の意)、「B=cd=ba52MAP」(部落の地図の意)、「BBS」(掲示板の意)をクリックすると、サイト内の各ページに入れるようになっている。

 各ページとも差別に満ちた内容だが、とくに「B-MAP」にはネット上の地図を引っ張ってきて部落と思われる部分を白っぽくして示した詳細な地図や、各部落に入って撮った写真、なかには自転車に乗ってビデオ撮影したと思われる5分ほどの動画が付けられた部落もあり、環境改善にかかわる詳細な事業名や、差別に満ちた多くのコメントが一緒に掲載されている。

殺されるという内容が
 -ネットに犯人による再開予告の書き込みも差別禁止の法整備、犯人の特定は緊急課題-

 今回、「刑法」第230条1項の「名誉毀損」で告発したのは、このうち、とくに甚目寺町内の部落のページに掲載された差別に満ちた内容のなかから、部落の代表的企業である同盟員経営のA社への「名誉毀損」の内容の記述があることを糸口に、同サイトそのものの犯罪性を社会に訴えたもの。部落内の多くの企業が写真入りで名指しで中傷されているが、A社については、捕まったら殺されるという内容まで記述されていた。

 同じページには、ほかにも町内の部落を「最恐」とし、「警告」の表示にも「同和地区及び未解決部落への一般人の立ち入りは非常に危険です。被差別部落民は一般人に対して強い恨みと反感を持っています。同和地区及び未解決部落への侵入はすべて自己責任でお願いします」と書くなど、多くの差別記載がある。

「撤廃条約」完全批准を

 今回、告発した差別サイトは、その前身ともいえる愛知県内の部落の一部をとりあげた差別サイトが昨年12月、名古屋法務局に削除され、それが今年1月、より悪質化して再開し、再度削除されるという経緯をたどってきた。2月の削除後も、ネット上には、犯人と同じハンドル(ネット上で使う別名)での同サイトの再開予告の書き込みが発見されている。犯人の特定と、差別を禁止する法整備、とくにインターネットの規制は一刻を争う緊急の課題だ。

 インターネットという媒体は、その特性上、流された差別情報の完全回収は困難きわまりない。同サイトには1万5000をこえるアクセスがあったことが確認されているが、削除後も一部のコピーがネット上で発見された現実がある。また、高額で売買された従来の「部落地名総鑑」と異なり、同サイトは無料公開。携帯電話やパソコンで瞬時に見られ、アクセス件数は「部落地名総鑑」購入企業数に比べても桁違いに多い。しかし、差別情報は従来と同じく被害者に隠れて伝達されており、具体的な差別事件が同サイトを元に発生したことを突き止めることは、きわめて困難だ。

 告発後の記者会見で、吉田委員長は、「部落差別を前提にしたもの。かつてない重い事件、看過できない。間違いをおかした人に訴えて話し合うのが本来の運動の姿だが、犯人が捕まらず、話し合いもできないということで告発に出た」と報告。とくに、厳しい差別のなかで多くの人たちが解放運動に立ちあがれず、部落出身を隠して差別にじっと息を殺している現実を強調した。A社の経営者の甥がかつて受けた結婚差別も紹介し、差別を禁止した「人種差別撤廃条約」の完全批准も訴えた。

 山崎書記次長も、愛知県内の建て売り住宅の広告にある差別記載の事例や、部落外で育って自分が部落出身と認識していなかった30歳代の人が、結婚相手との会話のなかで部落に親戚があるという話が出て部落出身を調べられた。そして、結婚式の1週間前に破談になり、職場も辞めざるをえなくなったごく最近の結婚差別事件を紹介し、部落差別の厳しさと、部落の詳しい所在地を掲載している同サイトの悪質さを強調した。