Yさん 大阪が大変です
Yさん元気にしていますか。急に沖縄に隠匿してしまってびっくりしています。
久しくお会いしていませんが、この夏お会いできるのを楽しみにしています。
初めてお会いしてから、もう丸36年がたちますね。私がムラの子どもと一生関わろうという思いを持たせていただいたのも、Yさんを始めとしたムラの子どもや、親でした。
おもちゃを多く持っていることに対して、「そんなに過保護に子育てをしたらあかんやん」と、言いにいった若造の私に、自分の差別体験や生い立ちを切々と語ってくれました。私は私なりに苦労して大学を卒業したとおもっていましたが、私の想像を超える話で頭をなぐられたような感じがしました。それでも、「やっぱり、おもちゃは与えすぎたらあかん」と、言うことを言い切った私を信用してもらったのか、それ以降、仲良くなれたような気がしています。
当時のムラの子どもたちは、普段ムラの中ではけんかをしていても、他地域と何かあれば、あっという間にまとまってしまうことにびっくりしたり、子ども会の中での顔と学校での顔があまりにも違うことにもびっくりしました。子ども会の中であんなにあけっぴろげで、笑っている子どもたちが学校ではしゅんたろうでした。それだけ「差別」を肌で感じていたんでしょうね。保護者たちの行動力にも驚きました。学校での差別事件で、その日のうちに学校に乗り込み、徹夜での糾弾でしたね。その糾弾の中で多くの親が自分の学校時代に差別されたことを切々と教師に向かってしゃべっている姿に感激しました。そんなことがあって、私は今まで解放子ども会に関わることができたのだと思います。
36年前と比べて差別が少なくなったとは思いますが、差別がなくなったわけではありません。先日もT地区の青年に、相手の親に結婚を反対されているという相談を受けたばかりです。
大阪こ青連は…
各地域の青少年会館は…
さて、「差別がある」と議会答弁で断言していた橋下大阪府知事の改革案で、いま、ムラに関わる多くの施策が廃止や縮小されていっています。
私が勤務している大阪人権センターの中にある大阪こども青少年施設等連絡会(旧部落解放子ども会大阪連絡協議会、大阪府青少年会館等教育施設連絡協議会)も、そのため今年度でなくなるかもしれません。2人いた職員も一人になり、事務所費を3分の1減額してもらい、私の給料を半減させてやっと3月までは存続することになりましたが。さらに、各地域の青少年会館に対し出されていた「地域青少年社会教育総合事業」に対する補助金が今年度で廃止になる見込みです。このままいけば、大阪こ青連の存続は難しくなり、各地域の青少年会館職員に対する研修や連絡・調整機能がなくなります。
今後、このような橋下知事の改革を受けて、大阪府下各地域の青少年会館で子どもに対して実施していた事業が縮小、廃止になることが予想されます。最近、青少年会館の担当者の話を聞いてみても、半減されることを予測している人が多くいます。今まで、解放子ども会指導者や、各青少年会館の職員が取り組んできた営みが問われているのだと思いますが。
「貧弱」といわれる大阪の青少年施策の中でも、解放子ども会は、子どもたちが荒れていた70年から80年代前半、校内暴力やシンナー等の「非行」に対して、仲間づくりや地域との連携の中で克服してきた多くの実践を持っています。また、低学力に対しても、個人的にはそれが克服できたと考えていませんが、その克服にむけて数々の実践が試みられてきました。
以前の青少年会館の取り組み
各地域で「非行」対策として取り組まれていたものの一つに、「生活合宿」があります。シンナーにどっぷりつかってしまっている中学生と子ども指導者、教師が山の中の合宿所にこもり、生活の立て直しを図るものです。その合宿の中で、指導スタッフが子どもたちの悩み(友だちがいない、勉強ができない、親に対する不満等)を聞きとったり、反対に子どもが保護者・地域の願い(差別体験、解放運動への思い等)を聞いたりしました。また、その中学生がクラスの仲間に「自分が頑張っていること」を手紙に書き、その反対にクラスの仲間が激励の手紙を出したりして、「集団作り」の営みとしても取り組まれていました。その結果、いわゆる「非行」を克服していった多くの実践が各地域で、形は少しずつ違いながらも取り組まれていました。
ムラの子どもの低学力は、今でも大きな課題になっていると思いますが、以前から「低学力の克服」が解放運動の大きな課題でした。多くの保護者が「家が貧乏やったから、高校いかれへんてん」「高校卒業の資格ないから、どんだけこまったかわからへん」といった自分の体験から、自分の子どもには最低限高校にはいってほしいという願いもあり、「中三合宿」という手法がとられていました。受験前になると学校が終わってから、自宅に帰らないで青少年会館に帰り、そのまま夜まで勉強し、青少年会館に泊まりそこから学校に登校します。その間の食事や弁当は、保護者が輪番制でつくります。学習指導は、教師、生活指導は子ども会指導員という分担でやっていました。
他には、地元教師による「地区補充学習会」が実施されているのが、一般的でした。さらに、「地区補充学習会」ではだめだということで、「解放塾」という保護者や地域で教育投資をしていくシステムを実施した所もあります。また、お互いの生活を知り、教え合うことで学力をつける取り組みとしての「グループ学習」や「夜学」(よるがく)という名前で、一定の時間帯テレビを切り学習することを保護者会で決め、実践していった地域もあります。
また、「こんなに沢山の(差別される)仲間がいる」ということを知る機会として、大阪府内の解放子ども会が集う「子ども会まつり」や「中学生討論集会」等が精力的に取り組まれていました。
最近の大阪府下の青少年会館
その一方で、各地域の青少年会館では、「法切れ」後、ムラの子どものみを対象にするのではなく、さまざまな「教育課題を抱えている青少年」に対しての事業に切り替えています。
たとえば、よく言われるように簡単に「キレる」とか、校内暴力、いじめ、不登校、小一プロブレム、学級崩壊、薬物汚染、子どもへの身体的虐待や子育て放棄、ひきこもり、フリーター、ニートといった問題まで、さまざまな青少年の課題が指摘され、社会問題化しています。このような青少年の諸課題に対して、今まで各地域の青少年会館や解放子ども会で実践してきた取り組みのノウハウをいかした取り組みを強化していく必要を実感しています。本当に、今こそ、さまざまな課題のある子どもに目を向けた青少年施策が必要だと思います。
そして、今後、各地の青少年会館が存続していくかどうかは、各地域の青少年会館がどう行政施策の中で位置付き、青少年会館でしかできない事業をどれだけ実施しているかにかかってくることになると思います。
その例として、大阪府内の青少年会館でいま、どんな取り組みがされているか紹介します。
たとえばらいとぴあ21(箕面市立萱野中央人権文化センター)では、六年前から、教育課題のある子どもに特化した事業展開を考えてきました。
まず始めたのは、中学生から高校生の障がいがある子どもへの自立支援事業でした。障がいがある子どもにとって、学童保育的事業は高学年の間はまだ居場所機能として利用することはできますが、中学校になるとそれがなくなってきます。そんな保護者からの相談から出発しています。こんな相談でした。
その相談は、「3月31日まで、居場所として利用していた「ぴあぴあルーム」(居場所としていた場所の名前)を、4月1日で利用できなくなるのです。なんとかならないか」というものでした。春休みはとにかく緊急だから受け入れる、今後毎日の受け入れは無理だから、本人が家で留守番ができること(家の鍵を開け閉めできること、電話の対応ができること)を目標に、春休みに受け入れて訓練させたことからの出発でした。現在では、箕面市内の障がいがある子ども10人が登録し、月2回活動をしています。それには、職員1人とボランティアスタッフ5人が関わっています。
また、中学校時代不登校だった青年の自立支援活動にも取り組んでいます。この活動は、フレンズ(適応教室の名称、らいとぴあ21の中で活動)に参加している当時中学生が、ユースサンタ(クリスマスにプレゼントを配る取り組み)に参加したことからスタートしました。幼児に喜んでもらえたのが嬉しかったのか、子どもの関わり(障がいのある若者への自立支援、低学年の子どもを対象にしたボランティアスタッフ)に参加しはじめ、通信制の高校に通いながら現在頑張っています。その青年にあこがれてフレンズの後輩も参加しだし、現在6人の若者が集まって、自分たちの学習もしながら、ボランティアに精を出しています。今年2月には、彼らを対象にこれから学級を開催しました。
その一方で、子どもの自立のための料理教室と題して、家庭であまり食事をつくってくれない(つくれない、つくらない)保護者の子どもを対象に料理教室を随時実施しています。これも解放子ども会の時代に保護者が弁当をつくれない状況の子どもがいたので、自分たちで弁当をつくってハイキング等にいったりしていた経験からスタートしています。
他地域の青少年会館ではどんなことをしているかといえば、たとえば、幼児対象の親子教室を実施している所が数カ所あります。地域社会が崩壊して、若い親の子育てへの不安はけっこう高いものがあります。そんな親が何十人か午前中、青少年会館に集い、子育ての方法を学び、親どうしの交流をしています。このような親子教室の取り組みは、ニーズの高い事業だといえます。
あるいは、萱野と同様に「ニート」「ひきこもり」の青年を対象に、「講座」を実施している所もあります。「虐待」をした経験のある保護者を集めて「講座」をしているところもあります。
青少年会館の今後に向けて
解放子ども会の実践の強みは、「事実」(差別があり、その結果としての非行や低学力があった)から出発し、それを克服するための実践を重ねてきて現在があることだと考えます。
今後、各地域の青少年会館が長く存続していくためには、各地域の青少年会館に集う青少年(どんな青少年を集めるかということも必要)の実態(事実)から出発する必要があると考えます。前述したように子どもが変容してきている現在、ムラの青少年対象のみの事業は無理があると思います。広域にわたって事業を展開していく必要があると思います。らいとぴあ21で実施している「不登校支援事業」「障がい児の自立支援」「自立のための料理教室」等が大事になると思います。当然、「ムラの青少年対象」の事業があってよいと思います。各地域の地域性や特性をいかして実践していく必要があると考えます。
さらに大事なことは、各地域の行政の中でどのように位置づけられるかということが大きな課題だと思います。かつての「同和対策」特別区とみられるのではなく、しっかりと行政の中での位置を作ることが必要です。らいとぴあ21では、「実践」の中から他機関の連携の必要が多数でてきて、らいとぴあ21の職員が「箕面市相談者連絡会」に参加できるようになっていますし、「箕面市要保護児童対策協議会」の構成メンバーであり、「児童虐待部会」に参加しています。また、フレンズ(適応教室の名称)推進委員会にも参加できるようになっています。行政内部の位置ができることにより、虐待のケースにあがった障がい児を自立支援事業で受け入れることができたりしています。
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