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2005.9.21
書籍・ビデオ案内
 
Human Rights2005年8月号(NO.209)
戦後60年、韓国からみた日本
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調査報告

名張市2004年度各種調査から見えてきたもの

内田龍史

 部落解放・人権研究所は、2004年度、三重県名張市の委託により、同和問題をはじめとしたさまざまな人権問題の背景や課題を追及・究明するために、「名張市人権問題に関する意識調査(市民意識調査)」、「名張市職員人権問題に関する意識調査(職員意識調査)」、「名張市外国人住民実態・意識調査(外国籍住民調査)」の三つの調査設計・集計・分析を行った。すでに名張市から報告書が刊行されているが、本稿は、これらの調査から見えてきた課題を、それぞれの調査ごとに紹介したい。

一、市民意識調査について

 市民意識調査は、人権侵害を被りやすいマイノリティとして、「障害を持っている人」「在日韓国・朝鮮人」「部落出身者」「日系外国人」に対する忌避的態度と、ジェンダー、障害者問題、 同和(部落)問題、外国人問題に関する意識をはじめ、さまざまな社会意識とのあいだにどのような関連が見られるかどうかを把握することで、差別解消の可能性を探求することを目的としている。調査対象者の範囲(母集団)は、2004年1月1日を基準として、2004年8月1日現在満16歳以上の名張市住民である。無作為抽出で3000名を対象とし、調査は郵送法で行われた。有効回答率は50.9%だった。

 本調査では、マイノリティの人びとへの忌避的態度として、マイノリティの人たちが住んでいるところの近所に住むことに対する態度(居住忌避)と、子どもの結婚相手がマイノリティの人であった場合の態度(結婚忌避)を問うている。

 居住忌避では、忌避的態度が強い順に、「在日韓国・朝鮮人」「部落出身者」「日系外国人」「障害を持っている人」となった。「在日韓国・朝鮮人」「部落出身者」では、15%程度の人びとが「抵抗がある」もしくは「少し抵抗がある」と回答している。

 図1は、結婚忌避の状況を示している。忌避的態度が強い順に、「障害を持っている人」「在日韓国・朝鮮人」「部落出身者」「日系外国人」となった。「日系外国人」を除けば、「反対するだろう」「迷いながらも反対するだろう」をあわせた割合は30〜35%となっている。このことは、これらマイノリティの人びとの3割程度が差別にあう可能性を示しており、結婚差別の厳しさを裏づけるものとなっている。

 部落出身者に対する結婚忌避的態度の、年齢別の傾向を示したものが図2である。30歳未満では「まったく問題にしない」の割合が3割を超えており、若年層で忌避的態度をとらない傾向が指摘できる。しかし、50歳以上の層では35%以上が「反対するだろう」もしくは「迷いながらも反対するだろう」と回答している。50歳以上という年齢層は、実際に子どもが結婚する時期にさしかかる層と推測できることから、結婚差別が生じる可能性は依然として高いと言えるだろう。

 相関分析により、忌避的態度と強く結びついている意識として確認できたのは、固定的な性別役割分業を肯定する意識、伝統や慣習を無批判に重んじたりする意識、不平等を容認する意識などであった。

 加えて、差別の現状認識の厳しさも、忌避的態度と強く結びついていることが指摘できる。このような傾向は、差別が厳しいと認識しているからこそ、マイノリティの人びとと関わることによって自身を差別されない位置に置こうとする、リスク回避的な態度のあらわれだと解釈することができる。こうした意識をどのように変革していくかは、今後の啓発の大きな課題となるだろう。差別の厳しさに触れることなしに、反差別の態度を形成することは可能なのだろうか。

 逆に、相対的に忌避的態度をとらない層は、それぞれのマイノリティとのつきあいがある層や、職場の研修で部落問題学習や人権問題学習を受けたことのある層であった。

 このような結果を踏まえると、マイノリティに対する忌避的態度を解消するためには、固定的な性別役割分業を肯定する意識、伝統や慣習を無批判に重んじたりする意識、不平等を容認する意識を解消すること、それぞれのマイノリティの人びととの交流を促進すること、職場での部落問題学習や人権問題学習を展開すること、などが指摘できる。つきあいを促進することの重要性(妻木、2004:内田、2004)や、職場での啓発の重要性(益田、2004)は、これまでの調査研究からも指摘されており、差別解消のための重要なポイントであることがあらためて確認された。

二、市職員意識調査について

 市職員意識調査の多くの項目は市民意識調査と同一の項目を用いている。加えて、業務と人権との関わりなど、職場における人権に関する意識も問うている。調査対象者は、2004年10月1日現在の職員1330人であり、有効回答率は75.7%であった。

 忌避的態度については、市民意識調査同様、「障害を持っている人」「在日韓国・朝鮮人」「部落出身者」「日系外国人」といった、マイノリティの人たちに対する忌避的態度と、さまざまな意識との関連について分析を行っている。市民意識と比較すると、全般的に職員の方が忌避的態度をとらない傾向が見られる。

 居住忌避では、忌避的態度が強い順に、「在日韓国・朝鮮人」「日系外国人」「部落出身者」「障害を持っている人」となっているが、比較的忌避的態度の強い「在日韓国・朝鮮人」「日系外国人」でも「抵抗がある」もしくは「少し抵抗がある」と回答した割合は1割前後にとどまっている。

 図3は、結婚忌避の状況を示している。忌避的態度が強い順に、「障害を持っている人」「在日韓国・朝鮮人」「部落出身者」「日系外国人」となっている。いずれも「反対するだろう」「迷いながらも反対するだろう」をあわせた割合が1〜2割である。このことは、マイノリティの人びとからすると、結婚相手が市職員であったとしても、1〜2割が結婚差別にあう可能性を示唆している。

 相関分析の結果、市民意識同様、忌避的態度と結びついている意識として、固定的な性別役割分業を肯定する意識や、不平等を容認する意識、差別の現状認識の厳しさなどがあげられる。相対的に忌避的態度をとらない層は、それぞれのマイノリティとのつきあいがある層や、部落問題学習を受けたことがある層であった。

 このような結果から、マイノリティに対する忌避的態度を解消するために導かれる結論は、市民意識調査とほぼ同様である。すなわち、固定的な性別役割分業を肯定する意識や、不平等を容認する意識を解消すること、それぞれのマイノリティとの交流を促進し、部落問題学習を促進することが求められる。

三、名張市外国籍住民生活実態・意識調査について

 名張市に居住する外国籍住民は、1990年代以降、大幅に増加しており、2004年2月1日現在、622名の外国籍住民が居住している。その内訳は、ブラジル籍38.4%、韓国・朝鮮籍33.8%、中国籍15.1%、アメリカ籍4.0%、フィリピン籍2.6%、その他6.1%となっている。これら急増している外国籍住民固有の人権問題や、ニーズを把握する必要から、外国籍住民生活実態・意識調査を実施した。調査は満16歳以上の521名を対象に郵送法で行われ、有効回収票数は94票、有効回答率は19.8%であった。有効回答率が2割を切っているが、外国籍住民を対象とした調査票の回収率の低さは他の自治体においても同様(伊藤、2005)であり、外国籍住民の実態把握の難しさを示している。とは言え、外国籍住民がかなり困難な状況にあることを把握することができた。

 国籍別に、在日外国人の人びとの置かれている状況がかなり異なるので、ブラジル・韓国朝鮮・中国の国籍別に結果を紹介しよう。

 ブラジル籍回答者は29人(有効回答率は14.4%)である。性別は男性が多く、年齢は20〜30代が7割弱を占める。日本語能力に関しては、2割弱がほとんどできず、7割が日常生活上での不自由を抱えている。日本語が不自由であることで、医療について9割が不満をもっており、「母国語が通じる病院がない」ことを不満として挙げる者も8割に達している。また、「生活に必要ないろんな情報が入ってこない」だけでなく、「自分たちの伝えたいことも言えない」こともあり、日常生活におけるさまざまな困難を抱えている。

 差別・偏見に関しては、「在日外国人は、日常生活の中で、日本人からなかまはずれにされたり、避けられたりすることがある」という意見に対して5割弱が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答している。また、「在日外国人は、日常生活の中で、日本人から低く見られたり、悪く見られたりすることがある」という意見に対しては、7割が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えている。さらに、自由記述では、犯罪者扱いを受けた経験などが記されており、差別を強く経験している状況を伺うことができる。

 行政サービスとしては、外国籍住民が気軽に相談できる窓口の設置を9割が求めていた。また、広報誌・パンフレットなどのポルトガル語への翻訳、日本語学習機会の提供を求める者が8割、外国籍住民への差別についての対処を7割が求めるなど、行政への期待は大きい。

 韓国・朝鮮籍回答者は43人(有効回答率は26.4%)である。性別は女性が多い。平均年齢は48.1歳である。在留資格は「特別永住者」が9割を占め、回答者のほとんどは、日本の植民地状況下での移住により日本に滞在することになった人やその子孫であった。

 差別・偏見に関しては、「在日外国人は、日常生活の中で、日本人からなかまはずれにされたり、避けられたりすることがある」という意見に対して4割弱が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えていた。また、「在日外国人は、日常生活の中で、日本人から低く見られたり、悪く見られたりすることがある」という意見に対しては、5割強が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答している。自由記述では、韓国・朝鮮籍であることでいじめ・差別を受けたとの記述のほか、駐車場の利用を断られた経験、就職差別を受けた経験などが記されていた。また、選挙権がないことなど、社会的・政治的権利が不十分であることに関する記述も見られた。

 行政サービスとして、地方参政権の保障、年金などを含め行政上の取り扱いを日本人と同等にすることを、それぞれ8割、7割が求めていた。

 中国籍回答者は13人(有効回答率は15.7%)であった。性別は男性がやや多く、年齢は30代が半数を占めている。

 日本語能力に関しては、4人が日常生活上での不自由を抱えていた。日本語に何らかの不自由を抱える9人全員が日本語を学びたいと考えていた。

 差別・偏見に関しては、「在日外国人は、日常生活の中で、日本人からなかまはずれにされたり、避けられたりすることがある」という意見に対して6人が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えていた。また、「在日外国人は、日常生活の中で、日本人から低く見られたり、悪く見られたりすることがある」という意見に対しては、8人が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答している。

 行政サービスとしては、年金などを含め行政上の取り扱いを日本人と同等にすることを、12人が求めていた。なお、自由記述では派遣会社による給与の搾取など、労働をめぐる困難な状況などが記されていた。

おわりに

 以上、それぞれの調査の概要を示したが、これらの調査により、名張市におけるさまざまな人権課題を把握することができたと言えよう。市民意識調査、職員意識調査では、ともに一定の割合で忌避的態度をとる層が存在することが確認できた。中高年層をはじめ、忌避的態度をとりやすい層をターゲットとした啓発が必要である。また、外国籍住民調査では、外国籍住民が、生活上の困難やさまざまな差別・偏見を被っていることを把握することができた。

 おそらく、これらの課題は、調査を行った名張市だけではなく、他の自治体においても見られるであろう。そのような普遍的な課題だけではなく、特に外国籍住民の著しい増加などを考慮すれば、それぞれの自治体に即した課題も多いのではないかと考えられる。それぞれの自治体において、今後も継続的に人権課題を把握するための調査が行われ、課題を把握した上での問題解決に向けた取り組みを推進していくことが求められる。

(うちだ・りゅうし 部落解放・人権研究所)