特集:識字運動をめぐる「人権」対「新自由主義」
本号は、第三研究部門「人権教育・啓発の調査研究」の識字・成人基礎教育研究会が特集を担当した。今回の特集は、205号(2016年)の「識字・基礎教育保障の動向と課題」に続くものである。
特集タイトル「識字運動をめぐる『人権』対『新自由主義』」に表されているとおり、この間に新自由主義的価値観は世界を席巻してきているが、識字・基礎教育保障にかかわる施策や、現場の取り組みについても例外ではない。そうしたなかで、識字・基礎教育保障の土台としての「人権」にもとづく理念や実践がますます求められている。本特集のそれぞれの論稿は、その期待に応えるものである。
その他に、朝鮮衡平運動史研究会関連の論文1本と書評1本、鈴木祥蔵氏の教育・保育論の今日的意義を見出す論考1本を掲載した。
次号216号(2022年・3月号)では、水平社創立100年をむかえるにあたって、当研究所の「差別禁止法研究会」で議論を積み重ねてきた、包括的差別禁止法をテーマにして特集を組む予定である。
目次
論文
特集にあたって 森実・・・2
国際的識字施策の潮流
一ユネスコ30年間の動向を中心に一 上杉孝實・・・ 9
【資料】識字の複数性とその政策及び計画にとっての意昧
一見解文書ー ユネスコ教育部門(翻訳:上杉孝實)・・・22
差別事象対応から識字・人権教育保障政策へ
一新自由主義・大阪における課題を中心に一 森実・・・46
新型コロナパンデミックと識字・日本語教室の課題 菅原智恵美・・・80
同化主義を乗り越える地域日本語活動 榎井縁・・・107
教育機会確保法成立後の展開と課題について 小原武次郎・・・130
日本語リテラシー(読み書き)調査の開発に向けた学際的研究
一基礎教育を保障する社会の構築を目指して一 野山広・・・152
韓国の識字教育施策の動向
ー学歴認定制度とコロナ禍の対応を中心に一 金侖貞・・・167
米国における成人識字および成人教育プログラム
—概要と批評― エリック・ジェイコブソン(翻訳:園崎寿子)・・・ 192
書評
『識字・日本語学習ブックレットⅢ 「人生をきりひらく識字学習」』
(大阪市内識字・日本語教室連絡会編) 新矢麻紀子・・・213
『識字・日本語学習資料2021 羽ばたくために 増補版』
(大阪教育大学地域連携·教育推進センター刊) 棚田洋平・・・218
『子どものころに学べなかったからこそー韓国と日本の識字・基礎教育ー』
(基礎教育保障学会(日本)、全国文解・基礎教育協議会(韓国)編)
岩槻知也・・・223
論文
朝鮮の被差別民「白丁」の近代 趙景達・・・227
鈴木祥蔵の幼児教育・保育論における人間学的前提 吉田直哉・・・259
書評
『戸籍からみた朝鮮の周縁ー17-19世紀の社会変動と僧・白丁 』
(山内民博著) 矢野治世美・・・276