2023年5月30日
2022年度「第2回みんなの人権・映像フェスティバル」入賞作品を公開しました
「2022年度第2回みんなの人権・映像フェスティバル」(主催:世界人権宣言大阪連絡会議)入賞作品をYouTubeで公開しました。ぜひご覧ください。
公開にあたって、フェスティバルの総評と入賞作品それぞれ評価、そして人権教育・研修の教材として活用する際のポイントをお伝えします。
【2022年度 総評】
第2回の応募作品は、さまざまなひっかかりを残す作品が多かった。入賞した作品にもその傾向が強く出ている。鑑賞後に「よかった、よかった」と言って終われるような作品ではなく、提起されていることがらについて、お互いに話し合うことが求められているということである。おもな被写体となっている登場人物の発しているメッセージ、作品を制作したり撮影したりしている人物の発信しようとしているメッセージ、撮影・編集技術などにより発生する入り込みやすさなど、一つの作品にはさまざまなメッセージが入り組んで存在する。とくにドキュメンタリーの場合には、このズレが作品のメッセージを引き裂いたり、混乱させたりすることがある。そうした要素を受けとめながら作品を活かすことが求められる。
【大賞】指先にときめきを 制作者:小林風輝(上智大学水島ゼミ)
【評価】
・作品のメッセージと被写体の姿勢、編集技術のバランスがとれている。
・自分のやりたいことに取り組んだ結果、社会貢献につながるというgoodモデルであり、主人公の姿勢や取り組みが視聴者を元気づける。
・高齢者がネイルを楽しむ姿、男性らしき人の姿もあり、年齢や性にとらわれず、自分らしく人生を楽しむ、豊かな社会を描いている。
・「身近なところから始められる人権活動」という点が他の人にも響くことを期待したい。
【視聴・教材利用にあたって】
・ネイリストという一見華やかな職業が、認知症回避の専門的技術も備えて福祉の現場で活躍している様子は、超高齢社会を支えるひとつのモデルになる。職業や地域活動等を通してさまざまな人が生きやすい社会を作る方法を考えるきっかけにして欲しい。
・「人権=優しさ」という世の中の思い込みを助長する恐れもあるので、人権そのものについて考えるには、「人権=国家の守る義務」という面を強調する作品との併用が望ましい。
・「おしゃべりな女性」「主人」などの言葉づかいはジェンダーバイアスがかかった表現として注意を促したい。
【優秀賞】日本で生きる~どんな出自や国籍でも共に~ 制作者:ウパダヤ・ユケス/福岡千晶(大阪府立三国丘高等学校 放送研究会)
【評価】
・制作者が自ら被写体となり撮影した作品で、レイシャルハラスメント(警察官が外国ルーツの見た目を基準に行う職務質問)やネット上のヘイトスピーチ、また「同化」を求められる様子など、日本で生きる外国人・外国ルーツの人びとがおかれている実態がしっかりと描かれている。
・それらは日本社会が抱える問題として多くの日本人が知るべき実態であり、視聴者に「共生社会とは」「人権とは」と問いかけている。
【視聴・教材利用にあたって】
・自分が主人公の立場だったら、日本は暮らしやすい国か考えて欲しい。また、暮らしやすい国にするにはどうあるべきか、どうしたらよいかも考えて欲しい。
・作品の中では「周りの人たちは優しい」しかし「警察はひどい」という対比で描かれているが、警察をはじめとする日本政府の外国人政策を支えているのはわたしたち一人ひとりである。
・最後に主人公が自分にむけられていたカメラを手にとり、映していた日本人にむけて、「僕は生意気ですか」と問いかける姿は、作品を観ているすべての日本人に対する問いかけに見える。問いに返している二人の回答は、求められている解答になり得るのか。視聴者である「あなた」はちゃんと答えられるか、ぜひ考えて欲しい。
・スピーチ指導の様子は、それが善意に基づいていても、「同化」を求める行為として注意を促したい。
【優秀賞】水俣と生きる~水俣病と宝物~ 制作者:倉持陽菜子(上智大学水島ゼミ)
【評価】
・1956年に公式確認されてから67年を迎える水俣病はいまだ解決に至っていない。胎児性水俣病患者である主人公に、原因企業であるチッソと被害を拡大させ、救済を放置してきた国、自治体の責任を問うとともに、健康被害や差別被害という今も続く被害の実態を明らかにし、その葛藤の中で水俣病は終わっていないという声をあげる主人公の姿を描いている。
【視聴・教材利用にあたって】
・主人公の発する言葉や姿勢に注目して欲しい。特に、「人は間違ったことをする。間違いに気づいたら立ち止まる勇気を持って欲しい、悪いと思ったらやめるべき」という言葉をしっかりと受けとめて欲しい。
・障害があることについての主人公本人の受けとめ方についての見方は、人により大きく異なるであろう。障害のあるいろいろな人からも話を聞きたいテーマである。またそのことは同時に、すべての人にとって障害がどのように捉えられているかという点にも結びついている。その意味では、見る人たち一人ひとりに問いかけられていると言えよう。
【特別賞】染みるは注ぐ 制作者:住谷文兵(京都芸術大学美術工芸学科)
【評価】
・既存秩序を問い直し、攪乱するという、ある種の「カオス性(chaos:混沌)」を重要な視点と捉える「クィア研究」の発想につながる、社会の常識に対する挑戦をしている。
※クィア(Queer) :元々は「奇妙な」といった意味の侮蔑的な言葉だったが、性的マイノリティの当事者がこの言葉を取り戻し、「ふつう」や「あたりまえ」など規範的とされる性のあり方に当てはまらないジェンダーやセクシュアリティを包括的に表す言葉として使われている。(出典:『LGBTQ 報道ガイドライン第2版』2022年LGBT法連合会)
【視聴・教材利用にあたって】
・家族のあり方や子どもを産む、育てることに関わる「社会の常識」を問い直す素材にして欲しい。
・同性と思われるカップルの妊娠。ファンタジーなのか、事実としてあり得るのか、設定がわからないことで想像を膨らませられる一方、どう受けとめてよいか迷うかもしれない。なお、トランスジェンダー男性の妊娠は日本でも報告されている。
・このような映像作品は、あらかじめ「事実の記録」(ドキュメンタリー)なのか、それとも「創作」(ファンタジー)なのか、はっきりさせておくことが求められる場合がある。この作品はそのあたりが分からないという点に注意が必要である。
2023年度「第3回みんなの人権・映像フェスティバル」も実施いたします。たくさんのご応募をお待ちしています。