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■地域社会での差別事件

 埼玉、和歌山、高知では、昨年に続いて差別発言事件が報告されている。埼玉では病院に見舞いにきていた人物が会話の中で「あの辺の○○(名字)は、みんなこれだ」と四本指を示した事件で、和歌山では老人ホーム入園者による「どけエッタ」「同和地区みたいな顔をしている。ここは○○(部落外の地名)やから出て行け」との差別発言が起こっている。高知では病院の入院患者が「エタじゃもんじゃけん、ご飯を食べるがも早いし、人にくれくれ言うて、もろうたりする」「指が一本足りんがよ」と発言した事件や、アパート住民同士の口論のなかで「あんた、エタかね」「おまんら、(四本指で示し)これやろ」と発言する事件が起こっている。

 香川では、タクシー乗務員が人権啓発研究集会への県外からの関係者に「今日なにかあるんですか。同和も関係あるんですか? 部落は怖いですわ」と発言したとの報告がなされている。

 今日、部落解放運動においては周辺地域も含めた「人権のまちづくり」の取り組みが進められている。しかしながら、これらの事件からは深刻な差別実態が垣間見られるのが実情である。こういった部落に対する忌避的態度をなくしていくために、「積極的な共通の目標・目的」を明確にし、運動体や隣保館、行政や住民などがそれぞれの立場から、協働の営みの過程をどう構築していくのかが大切である。

■就職差別事件

 この項については、東京、神奈川、石川などの報告から、統一応募用紙違反や面接での悪質な質問があとをたっていないことが窺える。

 とくに、大阪では人材紹介・派遣会社を通じて就職試験を受けたTさんが差別面接を受け、面接後そのまま職業安定所に相談に行ったことから発覚した事件が紹介されているが、その後の取り組みのなかから多くの課題の存在が明らかになっている。

 まず、差別面接を行ったS常務は、社内で公正採用選考人権啓発推進員を1995年から10年ちかくも担当していたのであった。ここから同社の日頃の人権問題への取り組みの不十分さとS常務の人権意識の低さが指摘できる。また、S常務は公正採用選考人権啓発推進員でありながらほとんど推進員研修に参加していなかったことが明らかになったが、このことから大阪の推進員制度が形骸化していることが指摘できるとともに、それを放置してきた大阪の労働行政における同和行政・人権行政の視点の弱さが指摘できる。さらに、この会社を紹介した人材紹介・派遣会社は面接の翌日、Tさんから事件についてメールで相談を受けたが、「このようなこと(差別面接)は氷山の一角ですから」と発言、当初は事件の重要性を認識していなかったことや、この人材紹介・派遣会社自身が公正採用選考人権啓発推進員を設置していなかった等という点も問題として指摘できる。

 ところで、今回はTさんの勇気ある告発から発覚したが、この間の取り組みを通じて、告発することなく泣き寝入りするというケースが多いことが就職差別の実態として浮かび上がっている。就職差別における被害者救済制度を確立し、告発がその後の自身の就職活動にマイナスの影響を及ぼすことなく「社会正義」として評価される仕組みが早急に求められる。