トピックス

研究所通信、研究紀要などに掲載した提言、主張などを中心に掲載しています。

Home意見・主張バックナンバー>本文
2006.01.31
意見・主張
  
参議院議員 松岡とおる 国会議事録
人権を日本の政治の中にしっかりと根づかせたい。
松岡とおるは、そんな思いで国会内外をかけめぐっています。
2004年7月の参議院初登院から、「人権立国ニッポン」をめざす松岡議員の新たな闘いがはじまりました。
人が人として尊ばれ、人権が守られる社会をつくっていく「人間を大事にする政治」をめざして活動しています。
連続・大量差別はがき事件を通して人権擁護行政の不備を問う

2005年7月25日 参議院行政監視委員会

○松岡徹君 民主党の松岡徹でございます。

 南野大臣、ありがとうございます。

 今日は私は、去る七月の一日に東京の地方裁判所である事件についての判決が出ました。懲役二年という、私自身も聞いて非常に厳しい判決が出たというふうに思っています。この事件の判決あるいは事件について様々教訓となるところがございまして、この事件に関します法務省の、法務大臣も含めまして、御見解なり考え方を聞かせていただきたいということであります。

 それで、この事件でありますが、二〇〇三年、平成十五年に、五月ぐらいから始まったんですが、差別はがき事件が、舞い込むようになりました。匿名でございまして、だれが差し出したのかどうか分からないということであります。それで、この事件の概要でございますけれども、検察側の論告求刑なり等もございますけれども、どんなはがきが届けられたのかということでありますが、二〇〇三年の五月から始まって、これは一年半近くに、ずっと続くわけです。延べにして四百通ぐらいが届いていったわけであります。

 この事件で犯罪事実として認められたといいますか、その一部を紹介しますけれども、脅迫文あるいは差別はがきなんですが、差し出しの相手は実際にいる人でございまして、おまえなんか綾瀬川に沈めてやると、おまえたちは豚殺しだということで、血も涙もない鬼以下のやつらやということですね。そして、えたはダニのように何かあるとすぐに集団で襲い掛かってきて、人間に迷惑を掛けるゴキブリやハエのような厄介でうるさい下等生物で殺す必要があると。部落民は焼き殺せばいいと。ごみ、ダニ、えた、ほんで実名を書いて、死ねと。そして、この事件の被害者となった実名を書いて、仮にU氏ですが、U氏を殺す会よりと。こういったはがきが二〇〇三年の五月からずっと連日のようにまかれていったんです。

 これの判決の内容を見ますと、被害者が特定されたのが五名でございますね。これで判決の内容は懲役二年ということでありますが、量刑の理由のところで、差別表現を含む脅迫文言を記載したはがき等を郵送して脅迫した事実、あるいはその被害者の住んでいる周辺の、全く関係のない周辺の住民のところにこの被害者を誹謗中傷するようなはがきをまいた名誉毀損をした事実、あるいはこの被害者の名前をかたって他のところに差別はがきを郵送した署名偽造、同使用の事案ということですね。

 この事件については、この被害者たちが告訴をしたわけでありますが、そのときの検察側の論告を見ましたら、我が国の憲法第十四条第一項は、すべての国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない旨規定しており、法の下の平等という理念、原則は基本的人権の尊重等と相まって我が国憲法の重大原則の一つとされていると。被告人の本件一連の犯行は、被害者らを一方的に差別し、同人らを脅迫、名誉毀損等したものであるから、我が国の憲法が定める重要な原則の一つである法の下の平等を根底から否定するものであり、我が国憲法に対する挑戦とも言うべき悪行であると、こういうふうに論告の内容も出ている。この犯人の人が昨年の十月に検挙されて、逮捕されたわけであります。それ以後数回の裁判が開かれて、七月一日に判決が出ました。結果は今申し上げたとおりであります。

 これについて大臣のまず感想といいますか見解といいますか、というのを聞かしていただきたいというふうに思います。


○国務大臣(南野知惠子君) 今先生の方から御紹介ありましたこの案件につきましては、本当に私自身も大変腹が立つ課題であろうかというふうに思っております。被害に遭われた方々、これだけ多くのはがきなどの投函を得て、又は聞くに堪えない言葉を発せられたということについては本当に遺憾であるというふうに思っております。

 そういう意味においては、その方々の胸のうちを察し、そういう形を是非なくしていく方向に行かなければならない。人権という問題は、一番大切な課題であるというふうに思っております。


○松岡徹君 ありがとうございます。

 人権擁護行政といいますか、それの最高責任者である大臣から同じ思いとして怒りを感じていただいているということについては非常に有り難いと思います。

 それだけではなしに、この事件は名誉毀損、脅迫等々でございます。その動機になったことが何であるのかという認識なんですね。その方法が名誉毀損あるいは脅迫をする動機あるいは道具といいますか、そういったものが何であったのかということについての認識をお聞かせ願いたいと思うんですけど。


○政府参考人(小西秀宣君) 私の方からでよろしゅうございましょうか。

○委員長(山口那津男君) 御答弁。じゃ、南野法務大臣。

○国務大臣(南野知惠子君) 正確なところは存じ上げておりませんけれども、その根底にあるものはやはり差別意識であろうというふうに思っております。あってはいけない差別であろうとも思っております。

○松岡徹君 あってはいけない差別、それが部落差別なんですね。今回の動機になったのが部落差別です。政府の審議機関であります同対審答申や一九九六年の地域改善対策協議会の答申でも今なお深刻な問題として位置付けられています。それは、今なおこういった形で部落差別が存在するということの事実があるからなんですね。

 私は、名誉毀損や脅迫がいろんな方法で行われますけれども、差別自身も脅迫に当たるあるいは名誉毀損に当たるということの判決が出たということについては、私は歓迎をしたいというふうに思うんですね。そのことを大臣、是非とも理解をしていただきたいというふうに思います。当然、同じ認識だというふうに理解をさしていただきたいというふうに思うんです。

 それで、問題は、どうしてこの事件を解決するかというところではもう一つ重大なことがあるんですが、この人は実はそれ以外にも様々なところに出しています。しかも、被害者と認定されたのが五人であります。この判決の中にも、あるいは論告求刑の中にも、被害者は相当多数に及ぶであろうということも論告の中にもございます。すなわち、被害者を特定しなかっても、その被害者は想像できるというところなんですね。そのことの認識を是非とも大臣にお持ちいただきたいというふうに思います。

 そして、もう一つ大臣の考え方をお聞かせ願いたいのは、この人は、部落差別だけではなしに、何といいますか、この被害者の名前をかたって他の被差別の人たちにも差別はがきを送っているんですね。その判決の中で犯罪事実として出ていたのは、例えば差出人はこの被害者の名前を使っています。大臣も御存じだと思いますが、ハンセン病回復者の人たちの黒川温泉の宿泊拒否の問題がありましたですね。あのころであります。

 熊本恵楓園という療養所、ハンセン病療養所があります。そこに彼はどんなはがきを送っているかといえば、おまえたちハンセン病にかかったやつらはハンセン病発病の時点で人間ではなくなった。ダニやゴキブリやハエやノミやシラミやウジ虫よりもばかであほでうざったくて汚い下等単細胞生物になったのである。あるいは、ハンセン病、おまえたちふざけたことをするのもいい加減にしろ、本当に承知しないぞ。どうして何も悪いことをしていないアイスター、すなわち宿泊拒否をした旅館ですが、アイスターのホテルに三日間の営業停止や略式起訴なんてふざけたことがされなければいけないんだよという、こういったはがきをずっとハンセン病のその菊池恵楓園のところにこの被害者の名前をかたって送るんですね。あるいは、障害者団体のところにも同じようなことを送ります。あるいは、在日外国人の団体のところにも送ります。すなわち、今回の判決は、そういう意味では五人の被害者に対する犯行に対する判決なんです。

 しかし、この事件は、論告求刑のところにもありますように、被害者は多数に上るであろうというふうに言われています。同時に、ハンセン病の人たちやあるいは障害者の人たちや、そういったところにも送られています。これは大臣はどういうふうに感じられますか。


○国務大臣(南野知惠子君) 今先生がお話しになられたハンセンの方、その他いろいろな方の中で弱い方たちがおられると、社会的に弱者がおられると思います。その人たちに対して何のあれもなく差別扱いをするということは、これはけしからぬことだというふうに思いますし、その方々の人権をどのように守っていかなければならないかという人権擁護の課題というのが今早急に考えられていかなきゃならない課題だというふうに思っております。

○松岡徹君 大臣からそういうふうに言われると非常に有り難いです。

 私も実は被差別部落の出身でありますし、就職やあるいは結婚のときも自らそういう被差別体験をしておりまして、そのときに私は、今のような人権擁護といいますか、救済という議論が全く、まあほとんどなかった時代でありますから、救済を申し入れる場所もありませんでした。すなわち、泣き寝入りなんですね。そして、自らが希望する就職ができなかったという私も経験をしておりまして、やっとここまで議論がされるようになってきたと。しかし、一方でこういう厳しい現実があるということを見ると、私自身も非常に身を切られる思いでございます。是非とも大臣のその決意を忘れないようにお願いを申し上げたいと思います。

 そして次に、この事件が起きたのは、先ほど申し上げたように、約二年ほど前の二〇〇三年、平成十五年の五月から差別はがきが始まりました。そして、その延べの枚数は一年半で四百枚を超える差別はがきがそういう形で全国にまかれました。その中で、この事件で被害者として認定されたのが五人。しかし、裁判の中で議論になった、この行為によって多くの被害者が想定できるというふうに言われています。しかし、いずれにしても、この五人の、裁判の議論によりまして、大事だと思うのは今申し上げた、いかにこういった差別をなくしていくためにも救済をしていくのかという課題であります。

 そこで、法務省自身が、人権擁護行政というのがありまして、擁護局長、今日来ていただいております。この被害者の彼は、五月にそういうはがきがどんどん舞い込んできて、八月に、その年の八月に実は東京の法務局に人権侵害救済の救済申告をしておるんですね。それで、ずっと、行くところないですから、しかしまあ擁護行政、法務局、東京法務局の方に救済申立てをしていくわけであります。

 私は、結果的に見ても、この間の法務局、特に人権擁護行政の、行政の対応はちょっと非常に軟弱といいますか、弱いんではないかという気がします。私、事前に擁護局の方にその事実の関係を教えてほしいと、どんな対応をしたのかということを聞かせていただきました。まだ、これでもまだ不十分でありますけれども、どんな対応をしてきたのか、ちょっとお聞かせいただけますか。


○政府参考人(小西秀宣君) お答え申し上げます。

 今、議員の方で御説明になったような経過をたどりまして、私どもの東京法務局の方が被害申告を受けましたのが平成十五年八月でございます。その被害の内容が重大な人権侵害でありますことから、被害者の方々から聴取を行うなど所要の調査を行いましたけれども、相手方が不明であるということで、相手方に対する説示や勧告、啓発といった措置をとることができないという事案の特殊性にかんがみまして、関係行政機関とも連携いたしまして、次に述べますような四つ、ほぼ四つの取組を行っております。

 まず第一は、犯人の検挙については、浅草警察署に対しまして迅速かつ適正な捜査の遂行を数度にわたって要請をしております。一回は文書による要請を行っております。

 次に、そういう被害者の方々を差別し、あたかも暴力集団に属しているかのようなはがきが被害者の方の近隣住民の方に送付されておりまして、これが名誉毀損ということになるわけですけれども、そういうことから、被害者に対するいわれない中傷、誹謗が生じることを防止する目的で、東京都及び区の人権担当者らとともに被害地域の自治会等に啓発活動、要するに人権についての啓発活動を行っております。

 それから三つ目には、これは、この判決には載っておりませんが、この被害者の方々のところに犯人が差別はがきを送付するのみならず、注文しないような商品を送ったり、そういうこともしておりまして、そういう相談も出ておりましたので、そういう相談に応じるために法曹資格を有する弁護士さんの人権擁護委員を相談者として指名して、相談に応じていただきました。

 それから四つ目にさらに、東京都住宅供給公社の機関誌、これは結局、その被害者の方がおられるのが都営住宅でございまして、それが幾つかございましたので、その近隣の方に先ほどのような啓発をすると同時に、その都営住宅を管理しております住宅供給公社の機関誌、これに啓発の宣伝をさせていただくということをしております。

 以上のようなほぼ大きく四つの取組をさせていただいた上で、平成十六年十月に被疑者が逮捕されたという情報に接しまして、浅草署に対しまして適正な刑事処分を求めて告発を行うと。同時に、被疑者、被告人となった相手方から事情を聴取いたしまして、面会をいたしまして啓発をしておるというのが私どもの取組でございます。

 以上でございます。


○松岡徹君 私もこの被害者の人と話ししたんですね。事情も聞いてきました。

 八月に第一回目の法務局に人権救済の申入れをしました。そのときに法務局は、お気の毒だができることは限られているというふうにこの被害者に答えておるんですね。あるいは九月にもう一度東京法務局に申入れをしに行ったんですね、話合いをしに行った。そのときの法務局の対応は、被害者の被害状況を聞くだけに留まって、具体的な回答は即答できないと。即日できないと。回答はもういつできるか分からないというふうに答えているんですね。

 今、局長がおっしゃったように、人権擁護行政って一体何やと、何をしてきたんやと。被害者をまず守るという立場に立っているのかどうか。この場合は犯人分からなかったんです。犯人分からない。しかし、人権侵害の証拠といいますか、はがきは、あるいは行為は分かっているんですよ。でしょう。それで、だれが被害を受けているかというのも分かっておるんですよ。分かっておったんでしょう、法務局。なのに、周りに啓発ビラをまいて説得したと。

 被害者は一体どういう状態に置かれているんですか。なぜ被害者に対してこんな冷たい回答をしたんですか。


○政府参考人(小西秀宣君) 今、議員のおっしゃいました時期に被害者の方が私ども法務局の方へおいでになっておるということはそのとおりでございまして、ただそういう、今おっしゃいましたような、どういう言いぶりをしたかは私ども正確には把握しておりませんけれども、私どもが承知しておりますのでは、できる限りの対応をしたいというふうにお答え申し上げたということでございますが、ただ、私どもも任意の調査機関でございますので、なかなか御満足のいける対応ができなかったかもしれませんので、その点はおわび申し上げたいと思います。

○松岡徹君 人権擁護行政というのは被害者の立場にまず立つということが大事なんですよ。このときは、彼らは、自らの名前を名指しで殺してやるというようなはがきが連日来るんですよ。しかも、その周りの、自分の住んでいる周りの人たちのところにも不特定多数で、あいつは部落民だ、あいつはえただ、殺してしまえというようなはがきを周りにまくんです。彼自身は身の危険を感じているんです。だから救済を求めている。

 あなたはそのときに何をしたか。こんな事実を彼らは聞いたと言っているんです。こんな対応やったと、法務局に行ったらね。非常に冷たいというか、そういう対応やったと言うんですよ。結局、彼は何をしたかといえば、警察にも相談に行きまして、十月の二十一日に自らが警察に告訴したんです、犯人不明のまま。そして、法務省は告発したのは二十六日ですよね。でしょう。犯人逮捕された後ですよ。この間、被害者たちは法務省に、法務局、人権擁護行政に行って、告発してほしいと言っているんです。

 皆さん方の中にある、人権侵犯事件調査処理規程というのがあるんです。これは法務省の訓令であるんです。その中に告発という行為があるんですよ。重大な事案の場合は、法務省が、人権擁護局が告発すると言っているんです。なぜ今回のとき告発しなかったんですか。


○政府参考人(小西秀宣君) 今回確かに、議員おっしゃるとおり、告発をしましたのは逮捕後でございます。人権擁護機関としましては、人権侵害を行っている者を告発するに当たりましては、人権侵害を行っている者を特定した上で、事実確認を行った上で告発の措置を講じるのが相当と考えていたためであります。ただ、その前にじゃ何もしなかったというわけでもございませんで、誠に不十分かもしれませんが、その皆様方おいでのときに、必要の都度浅草警察署に説明し、迅速な捜査の遂行を要請しておりますので、そこのところはひとつ御理解いただければと思います。

○松岡徹君 局長が不十分だと言うのは、僕らもそう思うんですよ。決して悪気があるとは思っていませんが、被害者の彼らにしたら、こういう事実がしっかりと客観的に存在していますし、彼らは、一番最初に自らの立場に立って相談を聞いて安心できるような立場がまず法務省の人権擁護局だと思うんですね。そこに駆け込んでも、しかしそういう対応だった。

 彼らは最後に言っているのは、やっぱり一番頼りになったのは東京都あるいは区の行政なんですね。そして警察の対応だったんです。警察も、犯人が不明のままでも告訴を受け入れて、身の危険からその不安を取り除くような対応をしてくれた。だけれども、人権擁護行政は、擁護局は何もしていない。その辺についてはこたえ切れていない。それが不十分だと。まあ、やっていないとは言いませんよ、なぜできなかったのかということを私は明らかにすべきだというふうに思うんです。

 これは、今日は時間ありませんから追及、今日のところはとどめますけれども、大臣がおっしゃっていただきましたように、やっぱりその決意を忘れないでいただきたいと思いますし、大変なことだと思うんですね。

 しかも、人権擁護行政が行った対応については、この事件だけではないんですよ。実は七年ほど前に起きた慶応大学生による差別はがき事件も御存じですね。これも、判決自体、この大学生は逮捕されて有罪判決出ています。この場合、執行猶予付いております。このときにも出ていますよ。このことを、こういったことで、このような事件が広がる可能性があるということを予知しています、もう既に。すなわち、予防ということも、この人権侵犯事案調査等処理規程の中にも書いてあるんです、その観点から。

 そういうことから考えると、なぜこんな四百通もあの時点で、彼らは、これ犯人は一回犯行を思いとどまっておるんです。しかし、また繰り返しておるんです。すなわち、広がるということ。もっと有効な手だてをやれば、四百通にも及ぶようなはがきは行かなかったというふうに私は思うんです。そういう反省を是非とも受け止めてほしいというふうに思います。だからこそ、今の人権擁護行政は、非常に人権侵害を受けた人を適切な対処するに当たっては非常に不十分だというふうにまず指摘をしておきたいと思います。

 それと、後ほどまた次の法務委員会でもそのことについては細かくお聞きをしていきたいと思いますけれども、この判決出た後、判決の中でもですけれども、私はなぜ執行猶予が付かなかったのかというふうに思うんです。非常に厳しい判決です。私たち自身も差別を憎みますけれども、そういう差別を犯した人については、私は憎まないようにするべきだと。

 むしろ、この人は年齢からしたら三十の半ばですけれども、おぎゃあと生まれたときから差別してやろうという意識で生まれた人はだれもおりません。しかし、この三十数年間の間に彼は間違った認識を植え付けられていくんです。すなわち、社会にある差別の、この彼は、彼自身も犠牲者なんです。私は思います。だからこそ、そういったものの認識を正していくということが大事です。判決の中にもあります。判決の中に、これは猶予ではなくて実刑なんです、この矯正教育を施すことが大事だと書いています。

 そこで、私も先日も府中刑務所視察にも行かせていただきました。こういった場合の矯正プログラム、あるいはこういった人に対する矯正の在り方についてどう考えているのか、お聞かせいただきたいと思います。


○政府参考人(横田尤孝君) いわゆる差別に関する矯正教育プログラムの有無について取り急ぎ調査いたしました。その結果、同和問題や人権問題に特化したプログラムを実施している施設はございませんでした。

 しかし、そうではございますものの、被害者の心の傷や苦境を理解させ、被害者の立場に立って自らの加害行為を考えさせる「被害者の視点を取り入れた教育」、これは矯正施設における処遇プログラムの一つの、処遇プログラムの名称でございますけれども、そういう被害者の視点を取り入れた教育といったプログラム等におきまして人権に関する内容を実質的に指導しているほか、部外講師による講演や各種の講座等におきまして、人を差別する心の卑しさや差別行為が人権侵害であることを教える内容のものを実施している施設、それから人権啓発に関するビデオ教材を視聴させている施設などがございました。

 また、刑務所におきましては、面接等を通じまして、受刑者個々の犯罪に至る原因となった性格、行動傾向、物の見方、考え方等に見られる問題点に対する個別の働き掛けも実施しておりまして、例えば本人の差別意識が犯罪に直接結び付いているような場合におきましては、個別にその問題に対する指導を行い、改善を図っていくことになります。

 行刑施設における教育内容につきましては、受刑者を健全な社会人として社会に復帰させるため、御指摘の観点も含め、様々な観点から検討し、今後ともその充実を図ってまいりたいと考えております。


○松岡徹君 彼は、その裁判の間の供述のところで、なぜこういった考え方を持つように至ったのかということを彼は述べています。その中で、やはり周りの影響が強いです。すなわち、何の根拠もなしに、あそこの人たちと付き合ったらいかぬよとかいうようなことを植え付けられていく、あるいは最近のそういう出版物とか、あるいは、そういうメディアとまでは言いませんが、そういう他の様々な出版物の影響を受けるというのがあります。

 私は、そのこともしっかりと受け止めていただいて、私はその矯正局の側の職員の皆さん自身がどれだけ部落問題について、同和問題について認識があるのかということです。すなわち、周りの人にたくさん影響されます。だれが彼を矯正するのか。物ではありません。やはり人だ。その人がどれぐらい部落問題の認識を、正しい認識を持っているのかということがいい影響を与えていくと思います。矯正局の中にあって、是非ともそういった専門的な矯正プログラムを作るためにも、職員の皆さんの学習や能力を高められるような取組を是非お願いを申し上げたいというふうに思っております。

 時間が参りましたので、最後に、細かなところまで今日は申し上げられませんでしたけれども、是非とも最後に大臣にお答えを、決意をいただきたいと思うんですが、要するに、私たちは、この事件の教訓ということは、なぜこんなことが起きたのかという背景とかいうものをしっかりと受け止める、そのことは、再犯を防いでいこうあるいは予防していこうということにつながります。しかし一方で、こういったことによって多くの人たちが被害を被っているという事実にもしっかりと目を向けなくてはならないと思います。この事件の経過の中で、この被害を受けている人たちに有効な救済の手だてあるいは体制が私たちの社会にはまだ十分とは、整っているとは、十分とは思っていません。

 そういう意味では、今問題になっている、これからのこういった人権侵害や差別からの被害者をどう救済するのかということを、大臣の、最後に決意を、見解をお聞かせいただいて、私の質問を終わりたいと思います。


○国務大臣(南野知惠子君) 先生、もう御自分のことに触れながらいろいろと今論説していただいたかなというふうに思っております。私も、引揚者というようなことから、いろいろな被害に遭ったということも過去の体験の中からございます。

 そういう中からどのように立ち直るかという本人の問題ということもあるでしょうけれども、やはり先生御指摘のように、環境をどのように整えるかということが一番大切だと思っております。そのような環境の最先端に立って法務省は何すべきかということになってくるだろう。先生御指摘のような職員に対する問題点ということもありますでしょうし、いろいろな啓発活動ということも我々通していかなければならないと思っております。

 このような差別は絶対あってはならないことであるということを一番の基本にしながら、我々真剣に取り組んでいきたい、人権擁護の問題は人としての、人の道としての大切な課題であるというふうに認識いたしております。しっかりと頑張っていきたいと思っております。


○松岡徹君 終わります。
参議院議員 松岡とおる 国会議事録