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  インターネットによる差別事件については昨年版(2001年版)同様、この問題に詳しい三重県人権問題研究所・反差別ネットワーク人権研究会の田畑重志さんに分析等をお願いした。以下、それを紹介する。

(1)報告件数と新規件数

 2001年1月から12月までのメール、電話、掲示板への書き込みなどによるインターネットの差別事象が報告のあった件数は253件と調査と対処を初めた1997年以降最高の数値となった。これは2000年度と比較して4倍近い数値となる。「2ちゃんねる」で「池田小学校児童殺傷事件」「明石花火事故」など一連のニュース報道に関して部落差別が利用されたことなど大きなニュースとの関連性が大きい。

 また、その他にも「2ちゃんねる」が地名を掲載してもすぐ削除するようになったことや、一部「2ちゃんねる」側の都合で閉鎖される板(「2ちゃんねる」でいうところの特定の話題に対して書き込みが行えるスペースのこと)が出たことなどから,別な人物が作った「部落問題大辞典編集用掲示板」「部落問題大辞典編集用掲示板2」など差別をすることを目的とした掲示板、「まちBBS」という地域情報を主体としたページ内の「近畿掲示板」などもあいかわらず地名リストの数も増加している。

 新規に発見されたものはこれら掲示板が主体であったために少数ではあるが、それぞれの内容には悪質なものが多い。

 例えば「真夏の夜の恐い話」というページではいわゆる怪談話の中で「どうやら差別部落だったために近親相姦が多くなり、血が濃くなって奇形児がたくさん生まれたと言うことらしいのです」と偏見に基づく内容が書き込まれている。

 全体では報告件数253に対して、それぞれの差別の割合は部落差別102、在日韓国朝鮮人差別60、障害者差別33、部落差別と在日韓国朝鮮人差別の両方58である。以前と比較して障害者差別の数値もあがっている。これは乙武氏に関するものが多かったためである。)

報告者は被差別部落在住又は出身者80件、被差別部落在住又は出身者以外が173件で、報告者の性別は女性101人、男性77人、不明75人である。全体的に被差別部落在住者又は出身者が増加している。

 報告件数全体の中で掲示板は209件と「2ちゃんねる」を含み全体の82%を占め、差別の形態が掲示板主体、「2ちゃんねる」形式主体となっていることがわかる。これらの形態は「いちごえびす」など「2ちゃんねる」型の掲示板をみてもわかる。

(2)現状と問題点

 現状として「2ちゃんねる」で地名リストは即時削除するなど改善は見られているものの、内容的に犯罪に関連するもの、同和行政によるものなどがあいかわらず多数ある。

 事例として「2ちゃんねる」では池田小学校児童殺傷事件に関連して次のような中身が見られる。「ロイター通信によると宅間守氏(37)に包丁で殺された小学校の児童8名はエタ・ヒニンであることが明らかになりました。これにより宅間氏は国民栄誉賞を受賞することを正式に小泉首相が発表しました。『包丁1本でよく頑張った!!感動した!!!ありがとう!!!これからもエタ・ヒニンを処分して欲しい!!!!』感極まった小泉首相と宅間氏は固い握手をしたそうです。宅間氏の勇気ある行動に感動した国民から出張依頼も殺到しており年内の宅間氏による小学校訪問予定は一杯とのこと。」(線部分田畑)

 この殺傷事件については「殺害された児童が部落出身児童である」の他に「容疑者が部落出身である」「犯行の陰に部落解放同盟がある」などのパターンもある。

 また「部落問題大辞典編集用掲示板」のような地名リスト的な内容から家族が身元調査をしているという悩みが匿名で寄せられている。こうした差別を目的とした地名リストは「差別情報」でありデータとしていわゆる著作権上保護される内容のものではなく、結婚差別や就職差別に利用される可能性も高いことから1刻も早い対処が望まれる。

 さらに別の掲示板では次のような文章もあり、いわゆる部落民の見分け方といった書き込みも存在する。

 「以下の人に第3種接近遭遇したら、距離をおくべし。彼等が必ずしも地図上で空白の多い地区に住んでいるとは限らない。都市部にもけっこういます。但し、相手を刺激するとヒステリックに過剰防衛本能をさらけ出すので、距離を置きながら適当に煽てて、小動物を見る目で優しく接してあげましょう。

  1. 極端に強がり、軽蔑や差別に異常に反応する人。得意になって強がるが、実際の能力とはかけ離れている為、偽りの自慢話を繕う為の嘘が多い。
  2. 会話の中で「部落」、「穢多」、「非人」という言葉がでた途端、表情が一変する人。」

 現在の状況はこれら悪質なケースが見られて、書き込まれるケースが増加している。また、以前「地下鉄でGO」という名前であった差別ホームページが、「そーしゃるでGO」と名前を変えて再度出されたなどの事例は削除してもすぐ再発するという再犯性の色が濃い。

 部落地名リストは、1997年当時ではあいまいなものが多く不正確であったが、現在はNTTのwebサイトから探す方法が流され、書き込まれているものなど正確なものも多い。

(3)今後の展開の予想

 今後の展開の予想として、掲示板での差別書き込みの数値は1997年から1998年にかけての、分散した多数のホームページや掲示板があった形態から「あめぞう」、「2ちゃんねる」といった大掲示板への集合、一極化となっていたが、今後は「部落問題編集用掲示板」などへの分離に見られるように一極から2つほどに分離し、そのうちの1つが閉鎖されてまた一極的になるといったことを繰り返すことになるだろう。

 これらの課題に対して、2002年に岡山市が有害情報について市の掲示板に差別的な書き込みを行った場合などについて禁止条例を全国に先駆けてつくった成果をふまえて、各都道府県または市町村での取り組みが進められるとともに、大阪、奈良、岡山などにみられる解放運動関係者、教職員、行政職員などを中心としたプロジェクトや研究会などで行われている研究が、全国的に展開されることも必要になるだろう。

 また、今回の調査の中で、全体として低年齢層が増加してきており4割を占めていることから、教育分野における取り組みが急がれるといえる。

(4)対策のまとめ

 現在の差別ページに対する対策は、本人との話し合いをメールなどで行う、掲示板へ書き込んで啓発していくなどの方法や、法務局などがホームページの停止を求める、機関、団体などが取り組むなどいろいろな方法がある。

 そしてそれぞれに効果的であったり不十分な点があったりしていて、今のところ決め手となる方法や法的根拠があるとは言い難い状況にある。そのためにも早急にマニュアル的なものを検討して整備する必要がある。

(5)その他

 差別書き込みではないが、結婚差別を受けたなどの報告が掲示板やメールなどでされることがある。
 こうした表面に出にくかった結婚に関する問題が電子メールや掲示板で多くされてきている。「表面に出にくい」とされていた問題の「表面化」に対して、どのように対処していくのか。また、各都道府県や地域において実情にあわせたデジタルデバイドの調査の方法をどう確立していくのかなど、当面している課題に対しての対応策もまた急務である。

 さらに、2001年度より部落解放・人権研究所やIMADR-JCなどが主となりインターネットの差別に関する研究会が立ち上げられたが、今後このような研究会の成果報告が全国に流されるなど情報網の確立も急務である。