結婚に関する差別事件について、本書で紹介した事例からその概要を述べようとすることはかなり困難である。それは結婚差別事件自体がなかなか表面化しにくい事象だからである。
例えば、結婚差別について、これも大阪府が実施した「同和問題解決のための実態等調査(2000年部落問題調査)」のデータから考えてみる。
表Aは、調査の質問項目の「被差別体験の有無」について、総回答者数7,418人のうち2,085人が直接、「差別を受けたことがある」と回答している。
さらに、表Bはその2,085人のうちの「結婚差別」についての回答者の内訳で、約25%に当たる554人が結婚のことで体験している。
4人に1人の割合であるが、問題は結婚差別を受けたときの当事者の対処のしかたである。約40%が誰にも相談しておらず、また相談しても運動団体や行政に相談したのはほんの4%ほどである。つまり「結婚差別」についてこれまでほとんどが表面化されてこなかったということがいえる。大阪での調査と限定されてはいるものの、この数値から「結婚差別」という事象についての特徴がみえてくる。
その表面化しにくい「結婚差別」について、近畿大学の奥田均教授は「差別は人と人との関係を断ち切る。差別の現実とは、人間関係の断絶の現実であり、その断絶の刃となっているのが差別意識である。そして結婚とは、こうした人間関係の基礎をなす家族形成の出発点としてある。それは、仕事や趣味での関わりや隣近所の付合いに比べてはるかに強力で、半永続的なものである。根強い『イエ意識』が、結婚という人間関係の形成に、さらに大きな意味を持たせている。
だからこそ、部落差別もまた、結婚問題の中に著しく現れるのであり、最も厳しい課題として立ち現れているのであろう。その意味で、部落問題解決にとって、結婚差別の解消はその急所となるテーマである」と述べている。その詳しい解説については『データで考える結婚差別問題』(解放出版社、2002年5月)に書かれているので参照されたい。
表A (2000年大阪府「同和問題解決のための実態等調査」より)>
回答者
総 数 |
差別を受けたことがある
|
差別を受けた
ことはない |
無回答 |
この10年以内 |
10〜20年ほど前 |
20年以上前 |
時期無回答 |
小計 |
4,718 |
813 |
483 |
735 |
54 |
2,085 |
5,126 |
207 |
100.0% |
11.0% |
6.5% |
9.9% |
0.7% |
28.1% |
69.1% |
2.8% |
表B (2000年大阪府「同和問題解決のための実態等調査」より)>
|
回答者数 |
家族や親戚に相談した |
友人に相談した |
部落解放運動をしている人(団体)に相談(連絡)した |
行政(人権擁護委員等を含む)に相談(連絡)した |
差別をした人に抗議した。話し合った |
その他 |
誰にも相談しなかった |
無回答 |
被差別体験
|
2,085 |
24.8% |
16.1% |
7.7% |
1.2% |
19.4% |
7.4% |
38.5% |
2.4% |
結婚
差別 |
自分が同和
地区の場合 |
268 |
36.2% |
17.5% |
3.7% |
0.4% |
13.8% |
6.3% |
39.6% |
3.0% |
自分が同和
地区外の場合 |
286 |
18.5% |
18.9% |
3.5% |
0.3% |
20.3% |
5.2% |
42.3% |
7.0% |
|