〈事業の概要〉
同和対策事業の目標は,*同和対策事業特別措置法5条によると,<対象地域の住民の社会的経済的地位の向上を不当にはばむ諸要因を解消すること>となっている。6条ではさらに詳細な内容規定が示されている。それを項目別にまとめると,…@生活環境の改善に関する事業、…A社会福祉および公衆衛生に関する事業、…B産業の振興に関する事業、…C雇用促進等に関する事業、…D教育文化の向上に関する事業、…E人権擁護に関する事業などに分類される。
これらは大項目であり、中項目,さらに具体的な小項目があるが,それは各時期の特別措置法によって異なる。事業項目は,一般対策が基本であるが,特別措置法のみに存在する事業もある。上記の事業は国の事業項目であるが,地方自治体による単独の事業もある。これら*地方単独事業は,自治体によって項目,額とも異なる。特別措置法と一般対策とでは,同じ事業項目でも補助率・起債率の異なるものがある。
〈戦前の融和事業〉
戦前は,〈*部落改善事業【ぶらくかいぜんじぎょう】〉<*地方改善事業【ちほうかいぜんじぎょう】><*融和事業【ゆうわじぎょう】>と称されていた。<融和事業>は,内部更正的活動への補助や<国体>への融和という性格を持ちながら,一定の改善事業の予算を計上している。たとえば1933(昭和8)年度において<地方改善費【ちほうかいぜんひ】>として示された事業項目をみると,…@地区整理費,…A育英奨励費,…B地方改善融和機関奨励費,…C地方改善施設費補助,…D地方改善応急施設費となっている。
…Cの地方改善施設費には,融和事業専任職員,診療所,共同浴場,住宅改善,公会堂,隣保館,給水設備,託児所等の設置,副業奨励,その他の経済施設,道路下水の新設・改修,その他が挙げられている。34年5月中央融和事業協会融和教育調査委員会が〈*融和事業ニ関スル教育的方策要綱〉を決定,36年6月中央融和事業協会が<*融和事業完成十カ年計画>の初年度事業実施方針を決定している。しかし41年2月*中央融和事業協会が「融和事業新体制要綱」を決定し,12月には太平洋戦争が勃発。戦時体制への突入によって融和事業そのものも瓦解する。
〈戦後の同和対策事業〉
45年以降の同和対策事業は,戦前の融和事業を事業項目として参考にしながら部分的に地方自治体で展開されていた。国も53年度より同和予算を計上したが,本格的な同和対策事業としての展開は,69年7月同和対策事業特別措置法の施行による。これは10年間の時限立法として施行されたが,10年後,<残事業多し>との判断により,さらに3年間の延長となった。82年2月*地域改善対策特別措置法案の閣議決定によって,<同和対策>という名称から<地域改善対策>に変わった。<同対法>施行後,必要に応じて暫時,事業項目数が増加していたが,<地対法>への移行時点で,82事業に確定。87年4月の〈地対財特法〉への移行に伴い、事業の廃止、移行、統合などがなされ、55事業となった。92年(平成4)2月<地対財特法改正法>の閣議決定がなされ,5年間の延長が決まったが、その時点で10事業が廃止され45事業となる。93年、総務庁は生活実態調査を実施した。調査結果の分析と判断をめぐり,*地域改善対策協議会において<新たな同和行政の発想と展開の必要性や国内外の人権政策状況との対応関係など>が議論され,その結果,激変緩和措置,人権政策としての同和対策の推進,一般対策での工夫などが提示された。96年12月*人権擁護施策推進法が公布され,特別措置法そのものの終焉が決定的となった。しかし,激変緩和措置として,15事業に限定して<地対財特経過法>の閣議決定がなされた。同和対策に限定して審議する機関が存在しないため,特別措置としての同和対策事業は2002年3月で自動的に終焉する。激変緩和措置として継続された15事業のうち,*建設省の事業以外はすべて<非物的>となった。
〈今後の課題〉
<地対財特法改正法>(1997)で<一般対策で工夫し実施する事業>と明示されている各事業については,経過措置として激変緩和措置がなされてはいるが,国も地方自治体も,問題解決のために一般対策を活用するための工夫はほとんど行なっていない。〈ソフト事業【そふとじぎょう】〉は<啓発・教育>という認識があるが,長期的維持管理,コミュニティ形成,産業の活性化,就労の高度化・安定化,事業未実施地区や未指定地区などの問題,さらには大学や短期大学などへの進学率の向上や学力保障もソフト事業である。
従来の同和対策事業の成果を生かすために,また従来の施策の限界を超えるという意味においても,人権行政の一環としての同和行政を地域的プランとして具体化していくことが必要である。近年,同和地区住民の自主的まちづくりによる同和問題の解消に向けての新しい試みが生まれつつある。同和問題の解消のためには,〈人権侵害による被害の救済も含め各種事業による広義の救済〉<啓発・教育><*まちづくり>などに関する法的措置が必要である。
参考文献=総務庁長官官房地域改善対策室編『同和行政四半世紀の歩み』(中央法規、1994)/同監修『同和問題の早期解決に向けて』(同前、1997)