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部落解放・人権研究所編『部落問題人権事典』より)
本文中の*は『部落問題・人権事典』に解説されている項目です
【部落分散論】

 <部落民は集団的にかたまって住んでいるから差別されるのだ。分散すれば差別はなくなる>という考え方。これは,古くから一般市民の間でもたれている素朴な考え方であり,体系的に論理展開されたものではない。しばしば,…@部落は閉鎖的になるな,…A部落の中で甘えずに,外に出ていって暮らせ,…B部落出身であることを隠せ,…C差別されても気にするな,といった考え方とともに主張されることが多く,差別の存続理由を被差別者側に押しつける考え方である。

 この論の誤りは,いくつかの角度から指摘できる。まず第1に,生まれ育った土地に愛着をもち,そこに住みたいという希望を何びとも奪うことはできないし,どこに住むかは他人がとやかく指図すべきことではない。部落に住んでいても差別されないようにするのが部落解放の目的である。第2に,現実には,部落から外に出て生活するようになった人々は多い。しかし,就職や結婚に際して*身元調査を行ない,部落出身であるとわかれば差別する人がいる。部落差別は,地域に対する差別であると同時に人に対する差別である。第3に,部落分散論は,部落は閉鎖的だという見方と対になっている。しかし部落は開放的であり,部落外から多くの転入者を受け入れてきた。第4に,部落は,貧しい人々の住みやすい所であった。社会的資源を十分に持たない人々は,互いに助けあうことで,生活の不安定性を補うためのシステムを発達させてきた。そのような人々の分散をはかることは,相互扶助システムの破壊でもある。第5に,かつては部落外に出たくても,経済的,社会的基盤がなければ出ていけなかった。現在ではそのような人々は少なくなり,高学歴層や若い世代の転出が進行している。第6に,コミュニティとしては貧しい人も豊かな人も,職業も個性も多種多様な人々が居住していることが望ましい。こうした考え方から,最近では,いったん外に出ていた人々も戻ってこれるような魅力ある*まちづくりがめざされるようになってきた。

 社会問題を<分散>によって解決しようとするのは古今東西よくみられることで,問題の根本的解決からの逃避である。

(野口道彦)