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昨年12月3日に閣議決定された「人権擁護施策推進法」(案)に関連して、国内の人権侵害救済に関する法律の試案として、桜井健雄弁護士より23条にわたる「部落差別事象の救済に関する法律」(案)が報告された。
法律(案)の基本的枠組みとして、第1に、実現性があり、かつ、人権侵害(不当労働行為)の救済に一定役立っている機能をもつ制度として、労働組合法に定められた労働委員会をモデルにしたこと、第2に実現性と論点の整理の上で、部落差別に限定したことがまず述べられた。
続いて逐条ごとに説明が加えられ、現在の労働委員会よりも機能強化した点と部落差別への救済ということでの工夫点が報告されたが、主な点は以下の通りである。
- 人権救済委員会は労働委員会のように中央労働委員会を置かず、都道府県だけとする(迅速な決定と不当労働行為と比べ部落差別の場合、個別ケースへの都道府県レベルの対応でいいのではという理由)、
- 「人権救済委員会の命令等」では時効を3年としたこと、命令に執行力を与えるため、命令の執行停止を裁判所に求めそれが決定されない限り、効力を生じるとしたこと、
- 「不出頭に対する制裁」を設け、出頭命令に応じる義務と応じない場合、申立人の資料と人権救済委員会の調査した資料で判断できるとしたこと、
- 「罰則」は、出頭命令に応じなかった者への罰金(10万円以下)、書類等の提出、検査に応じなかった者への罰金(10万円以下)、命令を守ろうとしない者へ履行勧告しそれに違反した者へは1年以下の禁固もしくは30万円以下の罰金としたこと、が主な点である。
部落問題との関連での工夫点は、
- 対象となる「差別事象」を定義づけたこと、
- 「申立権者」を差別を受けた個人だけでなく、当該個人の4親等内の親族、人権救済委員会が定めた基準を満たす差別解消をめざす団体にまで広げたこと、
- 直接の申立がなくても差別解消のための意見を公表できるとしたこと、
等であった。
これらの報告に対し、
- 「差別事象」として身元調査、取り引き等主要な内容が十分カバーされるように例示した方がいいのでは、
- 「申立権者」に団体を含めようとする際に団体が満たさないといけない一定の「基準」の内容の問題、
- 差別落書きのように、相手方が氏名不詳の場合、どうなるか、
- 命令の執行力を与える場合の、命令の範囲を差別の認定、差別行為の禁止、謝罪等だけでなく、損害請求や地位確認(採用の確定や昇進等)まで広くとるのか、
- アメリカの雇用平等委員会やカナダ人権委員会、イギリス人権平等委員会のような強力な権限をもっと盛り込めないか、
等多くの意見が出され活発な論議がされた。
これらの出された意見をふまえて、次の法律・狭山部会に2次案を出して再検討することとなった。また1993年より続いている岸和田差別貼り紙事件のような事件への法的措置・対応についても検討がいるのではと提起された。