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2005.03.07
意見・主張
  
部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会
第5回中央実行委員会 基調提案
―『人権侵害救済法』制定をめぐる情勢と当面する課題―
2005年2月23日
第5回中央実行委員会提案
<1>『人権侵害救済法』制定をめぐる情勢

(1)衆議院法務委員会先議による「法案」の再提出を政府・与党が決定

  1. 私たちは、一昨年の10月に「人権擁護法案」が廃案になって以来、政治責任・政府責任・国際責任の「3つの責任」にもとづき、「人権侵害救済法」の一日も早い成立をめざし、広範な取り組みを行ってきました。

  2. とりわけ、廃案以降の立法不作為状態を許さず、政治の主導的役割を発揮させながら、第162通常国会では何としても「法」制定を勝ち取ることをめざして、昨年末から与野党に対して粘り強い働きかけを行ってきました。

  3. その結果、1月21日の国会冒頭での施政演説において、小泉総理が「人権救済に関する制度について、検討を進めます」と言及したのに続き、2月3日には与党「人権問題等に関する懇話会」(座長=古賀誠議員)が、廃案となった「人権擁護法案」の修正法案を衆議院法務委員会先議で今国会へ再提出することを決定しました。

  4. 修正法案は、3月15日の提出期限を目途に再提案され、今国会での成立を図る見通しになってきましたが、問題は法案の修正内容がどのようになっていくかです。

     いよいよ、「人権擁護法案」の抜本修正の闘いや「人権侵害救済法」の早期制定の闘いが掛け値なしの正念場にさしかかってきます。

  5. 政府・与党のなかには、「今度もダメなら、法案の目は完全になくなる」とか、「2度目の国会提案であり、(反対があったとしても)必ず成立させる」との声も強くあります。しかし、私たちにとっても、「与党懇の基本方針では呑めず、安易な妥協はできない」ことは当然であり、「展望ある着地」でなければなりません。名実ともに「鎬を削る」闘いになっていきます。最後は、与野党協議による政治決着に委ねざるをえませんが、国際的に恥ずかしくない充実した法案に仕上げていくために、私たちは最後の最後までの息を抜かない取り組みを展開しなければなりません。

  6. いずれにしても、各政党やマスコミ・人権NGOなど各界の動きが、「法案」の賛否をめぐって一気に活発化してきています。さまざまな流言飛語に右往左往することなく、私たちのこれまでの闘いの原則を確認しながら、展望のある現実的な着地点をしっかりと固めていくことが重要です。

(2)2月3日の与党『人権問題等に関する懇話会』の概要

  1. 2月3日に開催された与党人権問題懇話会は、重要な意味を持っていますので、概要を報告しておきたいと思います。出席者は、次のとおりです。
    古賀誠(座長/衆・福岡7区)、二階俊博(衆・和歌山3区)
    熊代昭彦(衆・岡山2区)、自見庄三郎(衆・福岡10区)、山口俊一(衆・徳島2区)、鶴保庸介(参・和歌山)[以上自民党]
    東順治(衆・比例九州/福岡)、山名靖英(衆・比例近畿/京都)
    草川昭三(参・比例区/愛知)、冬柴鉄三(衆・兵庫8区)
    漆原良夫(衆・比例北信越/新潟)[以上公明党]
    滝実(法務副大臣/自衆・比例近畿/奈良)
    小西法務省人権擁護局長他

  2. 会議での決定事項については、下記のペーパーが与党懇よりプレス発表されました。
     『人権擁護法案に関する今後の対応について』

    人権擁護法案の再提出については、人権委員会の設置場所は法務省とすることとし、地方組織については地方事務所の充実に努めることとし、報道関係条項を凍結し、凍結を解除するには別途法律を要することとし、法律施行一定期間経過後に、法律について必要な見直しを行うことを基本方針として、今通常国会に提出し、成立を図ることとする。

  3. 正式な決定は、上記の通りですが、会議では次のようなことも議論された模様です。
    1. 法案名称の議論はあるが、一応「人権擁護法案」とする。
    2. 所管は法務省で行くが、法案の内容については、関係団体等との折衝で詰めていく。与野党協議も行う必要がある。
    3. 人権委員会の事務局構成については、法務省だけではなく、関係省庁から出てもらうようにする。
    4. 「一定期間」については、期間は3~4年後とするか、内容をどうするか、これも現場でもんでいく必要がある。
    5. 3月15日が法案提出期限なので、それまでに法案を詰める。

(3)野党・民主党『人権侵害救済法に関するプロジェクトチーム』の活動開始

  1. 一方、野党・民主党も与党懇の動きに対応して、1月28日には次のような方向が確認されました。
    1. 民主党は、法案の今国会成立に全力を挙げる。
    2. そのために早急にプロジェクトチームを立ち上げる。構成は、政調・部落解放推進委・NCの関係者で構成する。
    3. 与党の動向を見極めながら、戦術・折衝内容をPTで慎重に詰めていく。

  2. この確認を受けて、2月9日に『人権侵害救済法に関するプロジェクトチーム』が発足し、翌10日には初会合が開催され、法案成立への対応策が議論されました。
    民主党PTの構成は次のとおりです。
    常任顧問  
    川端幹事長(衆滋賀)、仙谷政調会長(衆徳島)
    座長 江田五月(部落解放推進委員会副委員長/参岡山)
    副座長 簗瀬進(NC法務大臣/衆栃木)、小宮山洋子(NC人権大臣/衆東京)
    事務局長 堀込征雄(部落推進委員会事務局長/衆長野)
    事務局長代理 福山哲朗(部落解放推進委員会事務局次長/参京都)
    副事務局長 山内おさむ(衆法務委理事/鳥取)
    千葉景子(参法務委理事/神奈川)
    高木義明(部落解放推進委員会副委員長/衆長崎)
    伴野豊(NC法務副大臣/衆愛知)
    泉房穂(NC人権副大臣/衆兵庫)
    委員松本龍・松岡徹・津川祥吾(NC人権副大臣/衆神奈川)
    その他関係議員
  3. なお、10日の第1回PTには、上記の議員以外に次の議員が参加されました。
    中川治=衆大阪、稲見哲男=衆大阪、大谷信盛=衆大阪、前川清成=参奈良、三日月大造=衆滋賀、楠田大蔵=衆福岡、佐々木秀典=衆北海道

(4)人権NGO・マスコミの動向

  1. 日弁連『国内人権機関に関するワーキングチーム』

  2. 人権NGO諸団体

  3. マスコミ関係(メディア規制の凍結案に対して各紙一斉に削除要求の論調)

<2>闘いの経過と原則の確認および現状の論点整理

(1)闘いの経過と原則の確認(旧法案提出から今日に至るまでの経過と論点)

「人権侵害救済法」制定の取り組むが正念場にかかってきたという認識のもと、今一度これまでの闘いの経過と原則を確認しながら、何が問題とされているのかの論点整理を行い、揺るぎなき闘いの方向を確認していきたいと思います。

《1.法務省と同盟との修正協議と決裂》

  1. 2002年3月に政府提案された「人権擁護法案」に関して、与党懇からの要請もあり、2002年7月末から10月末までの3ヶ月間に、計8回20時間におよんで真剣な法務省と同盟との修正協議が行われました。

  2. 協議過程では、同盟側も「百歩譲って、立ち上げは法務省所管でもやむ得ない」との立場で、法務省側からは具体的な個々の修正提案がなされれてきました。

  3. 最後の最大の争点は、「法務省から内閣府への移管問題」および「地方人権委員会設置問題」において明確な見通しを担保することでした。具体的には、「基本理念・現実判断・移行プログラム」を3点セット(パッケージ)で明確にして、それを法文附則に盛り込むことでした。

  4. しかし、法務省は、最終的には「制度設計の根本が違っており、審議会や与党懇の意向もあるので、法務省の口からは言えない」とのことでした。そこで、法務省との修正協議では抜本修正は無理であるとの判断からこれを打ちきり、政治決着の場へと舞台を移したということです。

《2.与野党協議の開始と廃案》

  1. 3点セットを法文附則に盛り込ませる政治決着の舞台として、「与野党協議」の場作りに取り組み、2003年6月に与野党修正協議が開始されました。

  2. ここでは、「人権擁護法案は大事な法律である」ことと「政府原案は修正の必要がある」という合意のもとで協議が進められてきました。

  3. しかし、同年の10月10日の衆議院解散に伴う廃案という事態のもとで、与野党修正協議は内容的進展を見ないままに中断されたのです。

《3.政治の主導的役割を発揮し、「3つの責任」にもとづく早期制定要求の闘い》

  1. 廃案以後、立法不作為状況が続く中で、われわれは2004年2月に「人権侵害救済法案要綱」を作成・公表しながら、「政府責任」「政治責任」「国際責任」という3つの責任を追及し、早期制定をする闘いを展開してきました。

  2. とりわけ、これまでの差別撤廃・人権確立にかかわる法律に関しては、政治判断にもとづく立法措置がとられてきた経緯からしても、政治の主導的役割を発揮しながら「人権侵害救済法」の早期制定を行うべきであることを強く主張してきたところです。

《4.現時点における闘いの基本方向の確認》

  1. 「3つの責任」の徹底追及にもとづき、第162通常国会での決着を求めていきます。

  2. 「政治の主導的役割」によって、独立性・実効性の確保を実現します。

  3. 「人権の法制度」の総合的確立への取り組みの一環として闘いを進めます。

(2)「独立性・実効性の確保に関する課題」についての論点整理

以上のようなの闘いの経過と到達点を踏まえながら、重要なポイントに関する論点整理を具体的に確認していきたいと思います。

《1.独立性の確保に関する課題》

  1. 独立性確保への担保は、「所管問題」・「人権委員会委員の構成問題」・「事務局の構成問題」の3点が重要となってくる。従来の政府・与党案は、所管を「法務大臣の所轄」とし、人権委員会委員は「5人の委員(常勤2人)で任期3年」で、事務局は「法務省人権擁護局の横滑り(中央20人強、地方200人強)」というのが骨格です。

  2. 所管問題は、人権の所掌事務は法務省という従来の便宜的・短絡的発想や「カネとヒト」の問題から議論すべきではなく、パリ原則などの国際的な動向や現実の人権侵害実態を踏まえながら、日本の人権の法制度の本来的なあり方にかかわっての理念を明確にして議論すべきです。その意味では、真に国家機関から独立した第三者機関とするには、会計検査院(憲法90条規定)のように、憲法明記の機関にするのがもっとも望ましいと言えます。しかし、現行憲法からすると、人権の総合性・発展性という観点から各省庁への統活・調整機能を持つ内閣府が所管する3条委員会にするのがもっとも現実的な選択です。法務省所管の場合の問題点は、名古屋刑務所問題など相次ぐ公権力による人権侵害の不祥事を起こしていることもさることながら、人権委員会の3大機能(仲裁調停・教育啓発・政策提言)を発揮しにくいという限界性があるということです。すなわち、「法の番人」としての法務省は、狭義の法文化された権利は擁護できたとしても、日々発展するという性質をもつ人権を促進したりこれにかかわる教育啓発や政策提言に関しては十全に機能発揮できないという性格を有しており、人権委員会を機能不全に落とし込める危険性を本来的に内包しているのです。

  3. 人権委員会委員の構成問題は、常任体制による問題処理能力から言っても最低でも7人以上(できれば11人程度)が必要であり、多元性・多様性やジェンダーバランスに配慮するとともに現実の差別問題・人権侵害問題に精通している人材を起用すべきです。

  4. 事務局の構成問題は、採用する事務局員の民間比率を高くするように官民比率を明確化するとともに、官出向職員については各省混成にし、ノーリターン制を追求するべきです。

  5. 事務局事務所は、独立した建物におくべきです。

《2.実効性の確保に関する課題》

  1. 実効性確保への担保は、生活圏域での人権侵害が日常的であることから、地方における人権委員会機能の発揮が重要であり、「迅速性」・「簡便性」・「安心性」が求められます。従来の政府・与党案では、法務局所在地の8ブロックに地方事務所(総勢200人強)を設置して対応することを骨格にしています。

  2. しかし、この政府案は、従来の法務省人権擁護体制を「看板替え」するだけのものであり、この体制では「迅速性」・「簡便性」・「安心性」が確保できないことは、「答申」でも認めているように実証済みです。

  3. したがって、都道府県ごとに「地方人権委員会」を設置することが必要です。既に、鳥取県や大阪府・福岡県でも条例による「地方人権委員会」設置の方向を具体化しようとしており、現実的な方向となってきています。

    また、実効性を確保するには、人権NGOとの連携を強化することです。

《3.公権力の不当な介入の排除に関する課題》

  1. メディア規制に関わる条項は、公権力からの不当介入の危険性を排し「報道・表現の自由」を確保するために、削除すべきです。もちろん、メディア関係の過剰取材や差別問題などは重要な問題であるが、自主的な取り組みによって善処していくのが望ましいと考えます。

  2. 差別事件に対する確認・糾弾は、人権NGOが行う自救的行為として憲法12条が保障する「国民の不断の努力」であり、権力の不当介入は許されてはなりません。

(3)「人権の法制度の総合的確立への課題」についての論点整理

次に、人権侵害救済法の制定にかかわる位置づけについての論点整理を行っておきたいと思います。

《1.人権侵害救済法制定は「部落解放基本法」の規制救済法的部分の実現》

  1. 20年にわたる「基本法」制定の取り組みで、その個別構成部分である教育啓発法的部分の実現として「人権教育・啓発推進法」を勝ち取ってきましたが、「人権侵害救済法」は規制救済法的部分の実現を勝ち取る重要な闘いです。

  2. したがって、人権侵害救済法の早期制定を勝ち取り、引き続き宣言法的部分を含む包括的な「差別禁止法・人権基本法」(仮称)の制定、組織法的部分としての「人権審議会」(仮称)の設置や人権の総合窓口としての行政機構の整備、さらには「人権のまちづくり」の支援・推進法(仮称)の制定などの課題に取り組んでいくことが重要です。

《‡A「基本法」闘争の発展継承である「人権の法制度」の総合的確立への一環》

  1. これらの「部落解放基本法」実現の闘いは、まさに日本における「人権の法制度」の総合的確立をめざす闘いそのものであるということです。

  2. 今日時点において特に重要なことは、人権に関わるさまざまな法制度が個別課題ごとに関係各省庁で所管されており、人権の総合的推進を図る行政窓口が存在しないことです。人権侵害救済法の所管問題もこのような事態の反映であると言えます。

  3. したがって、人権侵害救済法の制定闘争において、人権政策の総合的推進を図る政府の行政窓口機構の整備を早急な課題として取り組むことが重要となってきます。

<3>闘いの方向と当面する取り組み課題

  1. 今後の取り組みの基本方向
    1. これまでの「闘いの経過と原則」を踏まえ、高度な政治判断と戦術を大胆に駆使しつつ、人権侵害救済法の成立を第162通常国会で必ず勝ち取ることです。

    2. そのために、政治の責任において、与野党協議を早期に再開させ、法案成立への合意形成を働きかけていきます。

    3. 合意形成の中身については、法務省との協議・決裂の経過および与野党協議の経過を踏まえながら具体的に詰めていきます。(ポイント詳細は、別紙要請書参照)
      1. 「政府機関からの独立性」と「人権の総合性・発展性」を確保するために、創設される中央人権委員会は、各省への総合調整機能を有する内閣府の外局とすること。
      2. 人権委員会機能の「実効性」を確保し、迅速性・簡便性・安心性を重視して、生活圏域である都道府県ごとに地方人権委員会を暫時的に設置していくこと。
      3. 「報道の自由」や「表現の自由」に対する公権力からの不当な干渉につながる危険性があるために、メディア規制条項を削除すること。
      4. 差別に対する糾弾など人権NGOが行う正当な人権活動に対する公権力からの不当な干渉を排除すること。

  2. 当面の具体的な取り組み課題
    この基本方向を実現するために、以下の取り組みを当面の課題として提案します。
    1. 与野党の各党および政府(法務省)への働きかけの強化
      1. 与党人権懇
      2. 民主党PT
      3. 社民党
      4. 法務省人権擁護局

    2. 各界への働きかけの強化
      1. 実行委員会構成団体との綿密な意見交換
      2. 日弁連をはじめとした人権諸団体との意見交換
      3. マスコミ関係への丁寧なレクチャーの実施

    3. 地方議会決議の拡大の取り組み
      1. 2月議会で急速に拡大させ、300以上の決議獲得(全体の1割以上)
        〔現状=291決議〕
        県議会決議=長野県(12/22)、滋賀県(12//17)、兵庫県(12/17)、和歌山県(12/17)、福岡県(12/17)
        《5県議会》
        市町村決議=埼玉(25)、長野(38)、滋賀(19)、京都(1)、兵庫(13)、奈良(23)、和歌山(3)、徳島(17)、香川(22)、高知(9)、福岡(70)、大分(46)
        《12府県で286市町村議会》
      2. 地方人権委員会設置条例の推進
        〔現状〕i.鳥取県議会で昨年の12月議会に引き続き「鳥取県人権委員会設置条例」が2月議会で継続審議中
      3. ii.福岡県や大阪府でも条例制定への準備を検討中
    4. 適切な時期に中央集会および国会請願デモの実施

    5. 国会常駐闘争の実施と各団体・地方実行委独自の中央行動の展開

以上

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