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2005.07.15
意見・主張
  
2005年度部落解放人権政策確立要求第2次中央集会基調提案
-「人権侵害救済法」をめぐる現状と「法案」の充実・制定にむけた課題-
2005年7月12日
はじめに
  1. 私たちは、去る5月23日に緊急の中央集会を開催し、法案の国会提出を妨害している理不尽な反対派の動きに断固として抗議するとともに、国会会期が6月19日に迫っていることを踏まえ、政治責任において「人権侵害救済に関する法律」の今国会での成立を強く求めてきました。

  2. 第162通常国会は、郵政民営化法案を中心とした理由で、会期が8月13日までの55日間延長となったことにより、「人権侵害救済法」の成立にとっても時間的可能性が確保されたといえます。しかし、根強い反対派の妨害や国会運営の不透明性、さらには都議選などにより、法案審議の日程は大幅にずれ込んでいます。

  3. 今日時点では、もう既に残された時間は、後1ヶ月となってきています。掛け値なしの正念場です。私たちが、長年にわたって求め続けてきた「人権侵害救済に関する法律」の今国会での充実・制定にむけ、あらゆる妨害をはねのけ、持てる力の全力結集を図りながら、不退転の取り組みを展開しなければなりません。


I .『人権侵害救済法』制定要求の経過と現状

  1. 私たちは、一昨年10月に衆議院解散に伴い、抜本修正を求めてきた「人権擁護法案」が自然廃案になって以降、「3つの責任」(政治責任・政府責任・国際責任)にもとづき、「人権侵害救済に関する法律」の国会への再提出と早期制定を訴えてきました。

  2. 同時に、私たちは、法案のあるべき姿を提示する対案として、抜本修正の内容を具体的に「人権侵害救済法案要綱」(2004年2月)という形で策定・公表しながら、政府・与党に対して持続的な働きかけを行ってきました。

  3. その結果、昨年11月には、再生「与党人権懇話会」(新座長=古賀誠議員)が「次期国会での法案の再提出を目指す」方向を確認し、今国会(第162通常国会)での法案の提出・制定への準備作業が始まってきたのです。

  4. 今国会開会(1月21日)以降、マスコミ各社は憶測・風聞をも交えた「法案批判キャンペーン」を展開し、人権NGOやメディア関係団体も「法務省所管」と「メディア規制」を中心として反対行動を活発化させてきました。

  5. 私たちは、そのような状況の下で、従来の抜本修正を求めた立場(「内閣府移管」「地方人権委員会設置」「メディア規制条項削除」等)を堅持しつつ、現実的な判断(「将来展望につながる着地点」)にもとづく「今国会での充実した法案の早期制定」の取り組みを推しすすめてきました。

  6. 私たちは、このような取り組みにより、3月中旬には閣議決定がなされ、「法案」審議がはじまるものとの見通しを立てていましたが、3月10日以降に自民党内で異変が起こりました。すなわち、国権主義的・民族排外主義的立場から、「人権侵害の定義が不明確だ」とか「人権擁護委員の選任基準に国籍条項を入れるべきだ」とかの反対意見が出され、党内議論が紛糾し、一定の集約はなされたものの、今日まで火種は残ったままの状況となっています。

  7. また、この間、反対派議員は、与野党の中でもそれぞれ「真の人権擁護を考える懇談会」(自民党/平沼会長)や「人権擁護法案から人権を守る会」(民主党/呼びかけ人=松原仁議員等)などを結成し、院外の「新しい歴史教科書をつくる会」などと連動して反対集会を行ってきています。

  8. 私たちは、このような状況に対し、5月23日に緊急集会を開催し、反対派の意見に対する断固とした批判見解を明示するとともに、各地での抗議集会や学習会を取り組みながら、「今国会での充実した法案の早期制定」への全国的な社会的世論をさらに強化し、「法案提出の先延ばしを許さない」取り組みを行うことを申し合わせてきました。

  9. 以下、前回の中央集会以降の主だった経過について報告し、確認しておきたいと思います。

(1)前回中央集会(5月23日)以降の経過

  1. 5月23日 中央実行委「緊急中央集会」(星陵会館)
  2. 5月24日 民主党PTで「人権侵害による被害の救済及び予防に関する法律案」を了承し、翌25日にNC(次の内閣)で議員立法登録を決定。
  3. 5月30日 与党人権懇開催。(6月早々より法案の国会提出手続きを開始することと与人権党懇として冬柴公明党幹事長より自民党与謝野政調会長に「促進申し入れ」を行うことを確認)
  4. 6月1日 民主党PT・法務合同部会開催。(民主党法案について山崎新潟大学教授を招いて意見交換)
  5. 6月2日 自民党与謝野政調会長と反対議連の平沼会長が『人権擁護法案(政府案)の主な問題点』について協議。反対派の細部の修正要求には対応したものの事実上の「0回答」。
    反対派の修正要求は、「人権侵害の定義等が不明確」「人権委員会の権限が強大すぎる」「不当な人権救済の申出の対象とされた者の保護が不十分」「人権擁護委員の選任基準が不適当」の4点に集約。なお、反対派は上記文書を全国会議員にも配布。
  6. 6月6日 社民党推進委・法務合同部会。(山崎新潟大学教授を招いて「法案」についての意見交換)
  7. 6月8日 自民反対議連が会合。「(与謝野回答は法案についての)根幹的な問題点を解決しておらず、受け入れられない」との見解をまとめ、法案の国会提出に反対の方針を確認。
  8. 6月8日 部落解放同盟と人権NGO団体との第2回意見交換。(相互の立場を理解しながら、パリ原則にもとづく法律の今国会での成立について、概ね合意)
  9. 6月17日 国会会期を55日間延長することを衆議院で決定。(8月13日が国会閉会日)
  10. 6月19日 「つくる会」等の反対派が日比谷公会堂で集会。(平沼議員が出席)
  11. 6月24日 東京都議会選挙告示(7月3日投票)
  12. 6月30日 中央実行委員会役員による与野党への申し入れ行動。(与党人権懇、民主党、社民党)

(2)与野党への申し入れと対応報告

  1. 6月30日に、中央実行委員会の役員が与党人権懇話会および民主党・社民党に対して、「人権侵害救済に関する法律の充実と今国会での早期制定」に関わる要請行動を展開しました。

  2. 午後3時から代表団は、与党懇への要請を第1議員会館で行ないました。与党人権懇は、自民党からは古賀誠、二階俊博、自見庄三郎、熊代昭彦、鶴保庸介の5議員、公明党からは冬柴鐵三、草川昭三、東順治、漆原良夫、山名靖英、田端正広の6議員が出席しました。

    古賀座長は、1.皆さんからの具体的な実態を踏まえた要請は、胸打つものであった、2.与党懇では、既に今国会での成立を図ることを決めているが、わが党のもたつきで遅れていることは、申し訳ない、3.国際社会での信頼とリーダーシップを勝ち得るための「国の品格をかけた法律」であると認識している、4.残された期間で、公明党の皆さんとともに必ず実現する、と明言しました。

    また、公明党の冬柴幹事長は、1.許すことのできない差別に対する法的手だてがないということが恥ずべきことだ、2.この法律を一日も早く提出し成立させたい、3.古賀先生が言われた「品格ある国」をめざす、と力強く約束しました。

  3. 午後2時から社民党本部で行った要請には、福島党首や淵上副党首などが対応しました。福島党首は、1.反対派の人権バッシングに屈するわけにはいかない、2.日本が国際社会の一員として位置するためにも、ちゃんとした法律が必要、3.最大の問題は、国籍条項とメディア規制の削除である、4.今国会での上程と成立にむけ頑張る、との考えを示しました。

  4. 各党への要請行動の最後は、午後4時からの民主党に対してであり、民主党本部で行ないました。民主党からは、江田座長(「人権侵害救済法に関するプロジェクトチーム」)、堀込事務局長(部落解放推進委員会」)、山内法務部会長などが出席しました。

    江田座長は、1.与党とは、2月段階で「法」の必要性で一致し、与野党協議を通じて法案を詰めていくことを確認した、2.しかし、3月以降の自民党内の混乱により中断状態である、3.民主党としては、5月段階で「党独自の法案」を機関決定しており、いつでも提出できる状態にある、4.但し、与党との協議確認や法案提出への動きの努力もあるので、独自法案は堅持しつつも与野党協議の道がどのようになるか判断していきたい、との意向が示されました。

    堀込事務局長からは、1.今国会での決着ということで、6月の会期末をにらんで、党の独自案を出そうかという話もあった、2.しかし、国会運営状況や与党の動きを見据えながら、今国会での成立をはかるタイミングを判断するという姿勢である、との考えが述べられました。


II .充実した「法」制定への課題

  1. 私たちは、これまでの取り組みの経過とこの間の論議を踏まえるならば、充実した『人権侵害救済に関する法律』にするためには、この間の一連の各政党や国会議員への要請行動や前回の中央集会でも確認してきたように、主として次のような「5点の要請事項」にもとづいて、法案を仕上げるべきだと考えています。

  2. 私たちは、法案充実へのこれらの課題を再確認し、残された1ヶ月間にわたって、揺るぎない「法」制定への取り組みをすすめていきます。

(1)「人権」・「人権侵害」等の定義を明確にして、法案内容にふさわしい的確な法律名称にされたい。そのために、次の点に留意されたい。

  1. 人権の定義については、「人権とは、日本国憲法及びわが国が批准し又は加入した人権に関する条約に規定される権利とする」とされたい。

  2. 人権侵害の定義については、「人権侵害とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為とする」とされたい。

  3. 不当な差別の定義については、「不当な差別とは、人種等に基づくあらゆる区別、排除、制限、又は優先であって、平等な立場での人権を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有する行為とする」とされたい。

  4. 人種等の定義については、「人種等とは、人種、民族的若しくは国民的出身、皮膚の色、言語、国籍、在留資格、性別、妊娠、出産、婚姻上の地位、家族構成、信条、容姿等の身体的特徴、社会的身分、門地、職業、出身地、現在若しくは過去の居住地、所有する土地、障害、疾病、遺伝子情報、性的指向、性的自己認識又は公訴の提起若しくは有罪の宣告を受けた経歴とする」とされたい。

(2)創設される中央人権委員会は、「政府機関からの独立性」と「人権の総合性・発展性」を確保されたい。そのために、次の点に留意されたい。

  1. 人権委員会機能として、「仲裁・調停」機能、「教育・啓発」機能、「政策提言」機能を確実に付与されたい。

  2. 人権委員会委員の定数を最低でも7人以上とし、常勤体制の強化を図るとともに、委員の多元性・多様性の確保、ジェンダーバランス、現実の差別・人権侵害問題に精通した人材起用に配慮されたい。

  3. 委員会事務局の構成については、民間からの専任職員の採用率を高くするように官民比率を明確にするとともに、官出向職員については各省混成でノーリターン制を追求していただきたい。

  4. 委員会事務所については、誰でも安心して相談できるように、独自の独立した場所に設置されたい。

  5. 人権委員会の所管については、「政府機関からの独立性」や「人権の総合性・発展性」という観点から、各省庁への総合的な統括・調整機能を有する内閣府の外局である「3条委員会」として設置されたい。

  6. 人権擁護委員の選出基準に関しては、「人権の保障に精通している者」で十分であり、国籍条項の挿入は不要としていただきたい。

(3)人権委員会機能の実効性を確保し、「迅速性・簡便性・安心性」を重視して、生活圏域である都道府県ごとに「地方」人権委員会を暫時的に設置されたい。その際、次の点に留意されたい。

  1. 「地方」自治体が独自に設置をすすめている「地方」人権委員会との密接な連携を図れるように特段の工夫と配慮をされたい。

  2. 地方における人権委員会機能の実効性を確保するために、「地方」自治体や民間の人権NGOとの積極的な連携活動を行うように工夫と配慮をされたい。

(4)報道の自由や表現の自由に対する公権力からの不当な干渉につながる危険性があるために、メディア規制条項を削除されたい。

  1. 人権委員会設置に関わる「人権侵害救済に関する法律」において、メディア規制条項を設けるなどということは、国際的にも類例がなく、国際人権基準からも大きく乖離するものであり削除されたい。

  2. メディア関係の過剰取材や差別・人権侵犯報道などは、重要な問題であるが、メディア関係の自主的な取り組みと社会的な相互批判に委ねることが至当であることに特段の配慮をされたい。

(5)差別に対する糾弾など人権NGOが行う正当な人権活動に対する公権力からの不当な干渉を排除されたい。

  1. 人権の擁護・促進に関する活動は、官民のパートーナーシップの関係が重要であり、わけても差別された当事者や人権侵害を受けた当事者の声を大事にされたい。

  2. この観点から、当事者団体の人権NGOが行う自主的且つ正当な活動に対して、公権力が不当に介入したり、妨害することは憲法違反に相当する不当行為であり絶対に許されないことに留意されたい。


III .今国会での「法」制定の実現を勝ち取るための取り組み課題

(1)残り1ヶ月を連続した中央行動で「法」制定の実現を!

  1. 延長国会も会期末まで後1ヶ月を残すのみとなってきました。私たちが、これまで繰り返し強調してきたように、緊急かつ重要な「人権侵害救済に関する法律」の制定にむけた政治・政府責任を明確にしながら、政府・与党は責任ある法案提出と真摯な国会審議を直ちに行うべきです。

  2. このために、私たちは、「法案提出の先延ばしを許さない」という立場から、全国各地からの「今国会での充実した法律の早期制定」を求める切実な「思い」を中央集会に結集して、強力な要請行動を各政党や国会議員に対して行っていきます。本日の第2次中央集会をはじめ、来る25日には日比谷公会堂での3000人集会を開催し、国会請願デモを実施していきます。また、臨機応変に適宜、効果的な中央行動を展開していきたい考えていますので、周到な臨戦態勢を整えておいていただくことをお願いしておきます。

  3. また、法案が国会提出されたならば、直ちに「国会常駐行動」を実施し、各政党や法務委員会関係議員、地方6団体、メディア関係団体、人権NGO団体などを中心にして、強力な要請行動の展開と広範な社会的世論を形成していく体制を作っていきます。

(2)「488の自治体決議」を活用し各地域からのすそ野を広げた取り組みを!

  1. 中央段階での集中した「法の充実・制定」への取り組みは、各地域からの広範な裾野をもった取り組みに支えられていなければ、大きな力にはなり得ません。とりわけ、理不尽な「反対派」への動きと論調に対して断固たる反撃の取り組みを継続的に展開していくことが重要です。既に、都府県段階では具体的な取り組みが行われてきていますが、市町村段階でもきめ細かい持続的・系統的な取り組みが必要であり、広範に実施していかなければなりません。

  2. 各地域での自主的な取り組みと連動させて、現時点で488におよんでいる「地方議会決議」の力を活用し、「首長見解」の拡大の取り組みなどを推進しながら、全国的な社会的世論をさらに拡大していくことが、決定的に重要です。

  3. これらの取り組みをバックにして、地元での選出国会議員への強力な要請行動を持続していき、必ずや「今国会での充実した法律制定」への国会内多数派の形成を勝ち取っていくことです。

(3)日本の「人権と平和」を守り、発展させる闘いへ!

  1. 私たちが、この間何度も強調してきたように、「人権侵害救済法」を制定する取り組みは、日本における「人権と平和」を守り発展させることができるかどうかの岐路に立つ闘いとなってきています。

  2. 国権主義的・民族排外主義的な立場からの反対派の主張を万が一にも通してしまうようなことがあるとするならば、戦後60年にわたって営々と積み上げてきた「人権と平和」の礎は瓦解の危機に陥り、「戦争のできる国」・「弱者切り捨ての社会」へと転落していくことは明白です。このことは同時に、世界の人権潮流にも逆行し国際的に孤立していく道であることを肝に銘じておかなければなりません。

  3. かかる認識に立って、私たちは、国際的にも恥ずかしくない「パリ原則」の基本精神に合致した「人権侵害救済法」の制定を必ずや今国会で制定していくために、これからの1ヶ月間全力を傾注した取り組みをすすめていきます。

以上

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