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2004.06.16
意見・主張
  
日本における人権政策の確立を求めるシンポジウム
 5月24日、東京・松本冶一郎会館において、部落解放・人権研究所は、21世紀を真の「人権の世紀」とすべく、日本において人権政策が確立されることを求めて、シンポジウムを開催した。以下、その概要を紹介する。

松岡とおる・中央実行委事務局長より来賓挨拶とシンポの意義

  司会・進行の和田献一・部落解放同盟中央執行委員の開会でシンポジウムは始まり、まず松岡とおる・部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会事務局長より、今日の人権政策に関わる情勢とこのシンポジウムの意義とが示された。

  日本における人権政策の確立は、被差別マイノリティの悲願であり、中でも人権侵害救済法制の整備は国際的・国内的な責務である。しかし、人権擁護法案廃案以後、国会に新法案を提出する動きは極めて緩慢で、世論の関心も低下している。そこで、一日も早い人権政策の確立を求める行動を展開する必要がある。その点で、このシンポジウムは世論喚起のために極めて重要な意義を有している。また、現在人権侵害救済法の要綱案を運動側から提案しているが、その内容精査のために活発な議論を期待したい。

友永健三所長の基調提案

  これまで人権政策に関する提案は、初の本格的な人権政策である当研究所の課題提起(1993年)以後、1995年与党プロジェクト中間報告を受けた国の取り組み、社民党・民主党の提案、そして草の根からは人権フォーラム21、部落解放同盟、虹の連合などによるものがある。

  現在、国際・国内の人権状況を俯瞰すると、人種差別撤廃や人権教育といった取り組みが活発化するなど、積極的な側面があるものの、2001年同時多発テロ以降の武力紛争の多発、右傾化・国権主義の台頭、不況による生活権に対する脅威など、極めて憂慮すべき状態にある。それゆえ、差別・人権侵害撤廃法制や人権侵害救済機関の設置、人権行政推進体制の確立、あらゆる方面で人権の尊重を浸透させることが求められている。

山úア公士・新潟大教授の提起

  この基調提案を受けて、3人のパネリストから、国際人権法学・女性政策・憲法学の観点から、それぞれ報告を受けたが、まず山崎教授は、公共領域のみならず、市場・市民社会の各領域においても、人権政策の立案・実施が求められるとし、特に国際人権法をいかにして実施すべきかを提案した。

  人権擁護の責務は基本的に国家が負うものであり、国際人権基準について、国会による立法の整備、内閣による誠実な実施、裁判における積極的な解釈・適用を行い、その前提として国際人権法研修の実施が重要である。また、企業も現在、社会的責任を果たすことが求められており、その一貫として、あらゆる局面で国際人権基準を行動準則とし、さらに市民社会も、権利主張や運動の展開において、かかる基準の活用に努めるべきだとした。

建石真公子・法政大教授の提起

  近年の女性政策に関わる現状と今後の課題について、男女の平等を追及するにせよ、どのような平等・社会を描いているのかが異なっており、大きな争点としては、狭義の女性政策、つまり差別の結果の是正を目的とるのか、より広義のもの、すなわちジェンダー(性別役割分担)の解消を目的とするのか、という相違がある。現在でも収入や従業員比率において男女間の格差があるが、その根底には女性そのものに対する「不信」が潜んでいる。その解消のために様々な措置が取られてきた。

  男女共同参画社会基本法の制定後、多くの自治体において具体化されたが、他方で誤解・曲解に基づく攻撃がなされ、また割当制に対する批判も根強い。そこで、今後の課題としては、差別解消のために必要な措置であるとのコンセンサスを醸成することが必要であり、また重要な意思決定への参加を広げ、男女ともに性別によって生き方を限定されない女性政策を確立することが求められる。

江橋崇・平和フォーラム代表の提起

  人権論において現在、大きなパラダイム転換が起こっており、全面的な意味での市民生活の回復を図るための「人権のまちづくり」が志向されるべきだとした。日本国憲法上規定されている権利は、生産関係を基に概念化されていた。しかし20世紀後半、このような既存の概念では適切に解決できない問題が発生し、「生活者」への人権侵害が問題となった。まさに生活者という立場を機軸とした人権論が語られる必要が生じてきた。ここから、21世紀の人権課題が浮かび上がってくる。「市民生活の全面的な回復」、つまり「地域性・当事者性・総合性」を原則とした「人権のまちづくり」がそれである。

  以上3名のパネリストからの提起の後、会場からの質問を受け、それぞれからの短いまとめの発言があり、シンポジウムは成功裏に終了した。

※なお、本シンポジウムの詳細な内容は、月刊『ヒューマン・ライツ』7月号に掲載される予定。
(李 嘉永)

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