(1)中央実行委員会院内集会(2/23)以降の主な取り組み経過
- 2月23日 自民党・民主党5者会談(古賀・二階・川端・江田・堀込)
- 2月28日 日弁連と解放同盟との意見交換会(基本認識は一致)
- 2月28日 曹洞宗各政党要請行動
- 2月28日 社民党部落解放運動推進委員会(日弁連・メディアより意見聴取)
- 3月3・4日 部落解放同盟第62回全国大会
- 3月7日 国会常駐行動開始
- 3月8日 アジアプレスネットワーク主催の『このまま通してはいけない!「人権擁護法案」緊急記者会見』集会
- 3月9日 公明党法務部会で「人権擁護法案」を了承
- 3月10日 自民党人権問題等調査会・法務部会の合同会議で「人権擁護法案」をめぐって議論が紛糾し、了承見送りとなり継続
- 3月14日 全国同企連院内集会・要請行動
- 3月14日 『「人権擁護法」の制定に反対する西尾幹二氏らの論調を批判する』の文章を国会議員に配布開始
- 3月14日 『拉致問題の解決に障害となる「人権擁護法案」に断固反対する緊急声明』を「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(会長=佐藤勝巳)がマスコミに発表
- 3月15日 自民党第2回合同会議(議論は平行線で継続)
- 3月17日 民主党人権侵害救済法PT(メディア関係者より意見聴取)
- 3月18日 自民党第3回合同会議(議論集約できず、与党懇にはかったうえで、議論を再継続することを確認)
- 3月22日 狭山特別抗告棄却抗議集会・最高裁への抗議行動(17日決定)
- 3月23日 与党人権問題懇話会(意見調整を古賀座長に一任し、今国会で法案成立をめざすことを確認)
- 3月24日 民主党人権侵害救済法PT(日弁連より意見聴取)
- 3月29日 中央実行委員会役員会
- 3月30日 中央実行委員会緊急集会・要請行動
(2)「人権擁護法案」をめぐる自民党内での混迷
政府・与党が3月15日に閣議決定を行い今国会での提案・成立を予定していた「人権侵害救済に関する法律」(政府案では「人権擁護法案」)の取り扱いが、混沌とした状況になってきています。
与党は、3月9日に公明党が「人権擁護法案」を了承したのに続き、自民党が10日に了承して与党手続を終え、閣議決定を行う段取りでした。しかし、自民党の人権問題等調査会(古賀誠座長)と法務部会(平沢勝栄部会長)との合同会議で異変が起こったのです。
この合同会議で政府・法務省が提示した「法案」に対して、「人権侵害の定義の明確化」や「人権委員会委員・人権擁護委員の選考基準に国籍条項を設定」すべきだとの異論が相次ぎ、原案は了承されずに、継続討議ということになったのです。その後、15日、18日と合同会議がもたれましたが、議論は平行線をたどり結論は持ち越され、「合同会議は継続し、与党懇にも議論を投げかけ、できるだけ早い時期に合同会議を再開」するということが確認されました。
3月23日には与党懇が開催され、自民党内での国籍条項問題を中心とした議論が報告され、与党懇としての意見調整が行われました。公明党は国籍条項の問題は認められないとの姿勢を明確にした上で、与党懇としては「古賀座長に意見調整を一任し、今国会での法案成立をめざす」ことを確認したということです。
しかし、「法案」取り扱いに関しての具体的な見通しは、依然として不透明なままです。今国会での成立をめざした「人権侵害救済に関する法律」制定は、きわめて厳しい状況に直面していると言わざるを得ません。
(3)国籍条項挿入の議論は容認できない
自民党合同部会での議論は、従来の議論からすると、まさに「異変」でした。私たち自身も、人権委員会の所轄問題をはじめとする独立性や、実効性を担保する地方人権委員会設置、メディア規制条項の削除等に関して議論が集中するものと予測していました。
したがって、3月7日からの中央・地方実行委員会による国会常駐行動でもそれらの論点を中心にして、政党・国会議員への要請行動を展開してきたところです。
現時点で、自民党合同部会での「異変」を創り出した新たな争点を検証し、新たな闘いの陣形を整えておく必要があります。
第1の争点は、「人権侵害の定義の明確化」の問題です。この点については、われわれも従前から「人権委員会の判断の恣意性」を排除するために繰り返し指摘してきたところです。既に、昨年2月に策定した『人権侵害救済法案要綱』や『補強案』において、「人権の定義」、「人権侵害の定義」、「不当な差別の定義」、「人種等の定義」を明示してきたことは周知のとおりです。具体的には、次のように定義しています。
人権の定義については、「人権とは、日本国憲法及びわが国が批准し又は加入した人権に関する条約に規定される権利とする」としています。
人権侵害の定義については、「人権侵害とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為とする」としています。
不当な差別の定義については、「不当な差別とは、人種等に基づくあらゆる区別、排除、制限、又は優先であって、平等な立場での人権を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有する行為とする」としています。
差別事由の人種等の定義については、「人種等とは、人種、民族的若しくは国民的出身、皮膚の色、言語、国籍、在留資格、性別、妊娠、出産、婚姻上の地位、家族構成、信条、容姿等の身体的特徴、社会的身分、門地、職業、出身地、現在若しくは過去の居住地、所有する土地、障害、疾病、遺伝子情報、性的指向、性的自己認識又は公訴の提起若しくは有罪の宣告を受けた経歴とする」としています。
これらの定義は、さらに国会審議の中で深められ明確にしていくことは重要であり、可能であるならば法案提出の最初から曖昧さを廃して明示しておく必要があると考えています。
第2の争点は、「人権擁護委員の選考基準に国籍条項を設定すべきだ」という問題です。私たちは、人権が国籍の如何に関わらずすべての人に認められているものだという観点から、選考基準としての国籍条項に敢えて固執する必要はないと考えています。日常的な生活圏域で活動する人権擁護委員は、権力的な権限は一切持っていないことは一目瞭然であり、むしろ歴史的・社会的な事由や国際化の状況を考えた時に、定住外国人たちのなかから選出される人権擁護委員がいることは共生社会実現のためにもきわめて有益であり、国籍条項などを設ける必要性は微塵もないと言えます。2000年12月の人権擁護推進審議会の第2次答申である『人権擁護委員制度の改革について』も、このような観点から国籍条項の撤廃を指摘してきたところであり、国際人権潮流や日本の人権発展の歴史への逆流は断じて許されないものです。
(4)憂慮すべき国権主義的民族排外主義の論調
これらの争点は、「人権侵害救済に関する法律」の制定に向けての建設的な論議として、今後も大いに議論し深めながら発展させていけばいいものです。
しかし、憂慮すべき重大な問題は、これらの議論が、部落解放運動や女性運動などの人権NGO団体を「特定の団体」として排除したり、韓国・北朝鮮・中国などからの定住外国人を排斥しようとする国権主義的な民族排外主義の主張と抱き合わせでなされていることです。これらの動向は、到底看過できるものではありません。
とりわけ、3月11日からの産経新聞の「正論」欄における「人権擁護法案」にかかわる悪意と捏造に満ちた論調の一連の「反人権擁護法案」キャンペーンは、そのことを端的に示していると言えます。
これらの論調に符合するように、インターネット上では夥しい数の露骨な差別排外主義的な書き込みがなされており、国権主義的な差別勢力が台頭してきていることを物語っています。
私たちは、これまでの「部落解放・人権政策確立」をめざす取り組みの中で、「生命・人権・平和・環境」こそが、これからの日本の社会づくりの基軸であることを確認してきました。「人権侵害救済法」の制定をめぐる今日的な状況は、「平和と人権」を敵視する人たちとの熾烈なせめぎ合いの闘いになってきていることを肝に銘じておく必要があります。
(5)今国会での成立をめざす「人権侵害救済法」の内容充実にむけて
私たちは、自民党内の一部の議員およびその周辺で生じている議論の本質をしっかりと見極めながら、今国会での「人権侵害救済に関する法律」の制定を実現するために、全力を傾注しなければなりません。現時点における私たちの取り組みの方向を次のように確認しておきたいと思います。
第1に、「人権」・「人権侵害」等の定義を明確にして、法案内容に相応しい的確な法律名称にすること。
第2に、創設される「人権委員会」の独立性を確保するために、法務省所管ではなく内閣府に移管させること。
第3に、人権委員会委員や人権擁護委員の選考基準に国籍条項は必要なく、多元性やジェンダーバランスに配慮し、人権・差別問題に精通した人材を選出すること。
第4に、「人権委員会」の実効性を確保するために、日常生活圏域である都道府県ごとに「地方人権委員会」を暫時的に設置すること。
第5に、メディア規制条項を削除し、メディアの自主規制を求めるとともに、人権NGOの正当な活動(確認・糾弾等)への不当な公権力の妨害や介入を排除すること。
私たちは、「人権侵害救済に関する法律の早期制定」を求める12府県議会決議をはじめとする410にものぼる地方議会決議の力を背景にしながら、以上の取り組みの方向を確認し着実に前進していくことが大事です。複雑な政治力学が錯綜している厳しい局面打開へのしたたかな取り組みを展開し、差別撤廃と人権確立への重要な政策を決して政争の具にさせることなく、「展望ある現実的な着地点」をねばり強く模索し、今国会での「人権侵害救済法」の制定を必ずや実現させなければなりません。
(6)当面する取り組み課題
- 国会常駐行動による各政党・国会議員への要請行動の強化
- 人権侵害救済に関する法律の必要性等に関するマスコミ対策の強化
- 日弁連をはじめとする人権団体・メディア団体等との連携行動の強化
- 中央実行委員会構成団体および地方実行委員会の独自の中央行動の強化
- 「法案」の山場における連続的な中央集会・国会請願行動等の実施
【参考資料<1>/「人権擁護法案」にかかわる各紙社説】
- 2月13日 毎日新聞 『人権擁護法案メディア規制の狙い変わらぬ』
- 2月18日 東京新聞 『人権擁護法案衣の下に鎧が見える』
- 2月25日 朝日新聞 『人権擁護法案修正して成立を急げ』
- 2月25日 日経新聞 『懸念消えない人権擁護法案』
- 2月28日 読売新聞 『人権擁護法案「凍結」ではなく修正が筋だ』
- 3月10日 産経新聞 『人権擁護法案問題多く廃案にすべきだ』
- 3月13日 毎日新聞 『人権擁護法案メディア規制削除し出直せ』
- 3月16日 産経新聞 『人権擁護法案疑念は払拭されていない』
- 3月18日 朝日新聞 『自民党人権忘れた擁護法論議』
【参考資料<2>/「人権擁護法案」にかかわる各紙連載記事】
- 東京新聞『人権法案を問う』
- 3月6日 辛淑玉 『権力者カード使い少数者顧みぬ悪法』
- 3月13日 土井香苗弁護士 『被害者救済に独立性必要』
- 3月27日 片山徒有 『メディア規制より議論を』
- 産経新聞『正論』
- 3月11日 西尾幹二(評論家)
『「人権擁護法」の国会提出を許すな―自由社会の常識覆す異常な法案』
- 3月12日 長谷川三千子(埼玉大学教授)
『暴走する危険はらんだ「人権」の概念—許されない擁護法案の曖昧な定義』
- 3月15日 小堀桂一郎(東京大学名誉教授)
『見過ごせぬ「人権擁護法案」の下心―真の弱者守り救う法とは言えず』
- 毎日新聞『人権擁護法案に言いたい』
- 3月11日 河野義行(松本サリン事件被害者)
『メディア規制市民に不利益』
- 3月12日 二階俊博(自民党総務局長)
『凍結解除に「重いしばり」』
- 3月13日 藤原精吾(弁護士/日弁連人権機関設置に関するWG座長)
『公的機関の侵害に無力』
- 3月15日 簗瀬進(民主党「次の内閣」法相)
『削除せねば「解凍」許す』
- 3月16日 組坂繁之(部落解放同盟委員長)
『踏み込んだ修正で成立を』
- 3月17日 櫻井よしこ(ジャーナリスト)
『司法制度の充実が先だ』
|