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2004.10.13
意見・主張
  
部落解放・人権政策確立要求中央集会基調
―臨時国会で「人権侵害救済法」の早期制定を勝ち取ろう!―

2004年9月8日

  
I.はじめに―本集会の意義と任務

  10月上旬から開会される予定の臨時国会において、人権侵害救済に関する法律として「人権侵害救済法」の早期制定を実現するための取り組みを本格化していかなければなりません。

  私たちは、昨年10月10日に衆議院解散に伴い自然廃案となった「人権擁護法案」を乗り越えて、1年8ヶ月におよぶ4たびの国会論議と与野党修正協議の経過や抜本修正を求めた各界の社会的世論を踏まえながら、人権侵害救済に関する法律の早期制定の必要性を訴えてきました。そして、その要求の正当な根拠として、「3つの責任」を明らかにしてきました。

  それは第1に、人権擁護推進審議会の「人権救済制度のあり方について」と「人権擁護委員制度の改革について」という2つの答申の具体化を図っていくという政府責任の問題です。これは、同時に「部落解放基本法」制定運動の長年にわたる取り組みのなかで、私たちが勝ち取ってきた成果の一つを具体化させることでもあります。

  第2に、国連の自由権規約委員会、人種差別撤廃委員会、社会権規約委員会、女性差別撤廃委員会、子どもの権利委員会など国連人権諸条約機関からのパリ原則(1993年国連総会採択)に基づく「独立した国内人権機関の設置」を日本政府に求める一連の勧告に対する誠実な履行という国際責任の問題です。これは、1998年から今日に至るまで繰り返し勧告がなされているところです。とりわけ、「人権擁護法案」が提案された2002年には2回にわたって、日本政府に対して「国内人権機関の設置にかかわって協力する用意がある」との親書が、メアリー・ロビンソン国連人権高等弁務官(当時)から寄せられ、国際的な関心の高さと強い期待が存在していることを示しています。

  第3に、「人権擁護法案」を提案してきた経過や法案の修正にかかわっての与野党協議の合意事項について、真摯に遵守するとともに、最後まで責任を持って人権侵害救済に関する法律を制定するという政治責任の問題です。

  とりわけ、これまでの差別撤廃・人権確立にかかわる政策については、党派の利益を越えた与野党合意のもとに政治の責任によって推進されてきた歴史的経過があります。その意味においては、人権侵害救済に関する法律の制定にかかわっても、政治責任にもとづく政治判断が重要であることは言を待たないところです。

  ところが、今年の第159通常国会においては、この重要な人権侵害の救済に関する法律制定に向けての与党・政府の動きはまったく見受けられませんでした。

  私たちは、この不充分な局面を打開するために、2月3日に中央集会を開催し、「3つの責任」を徹底的に追及するという姿勢を再度明らかにするとともに、「人権擁護法案」の抜本修正という観点から各界の意見を集約する形で、「人権侵害救済法案要綱」を策定するという方向を確認してきました。2月24日には、法案要綱を策定・公表し、広く論議を呼びかけてきたことは周知のところです。

  さらに、5月24日にも中央集会を開催し、参議院選挙の動向を見据えながら、「人権侵害救済法」制定への立法手段も視野に入れた取り組みを推し進めていくことを確認してきました。

  私たちのこのような取り組みに押された形で、5月26日には法務省が与党との協議もなしに、秋の臨時国会でメディア規制の削除など一部修正した「人権擁護法案」の再提出を行うという意向をマスコミ発表してきました。参議院選挙後には、法務省が与党の関係議員にこのことに関して説明に回ったということです。しかし、政府・与党の間でその取り扱いについての明確な意思形成はできあがっていないというのが現状です。

  私たちは、「人権侵害救済法」の一日も早い制定が必要であり、そのためにはこれまでの経過を踏まえて明確な政治責任・政治判断をもって、秋の臨時国会で実現していくことが重要であると認識しています。

  本集会では、このような認識に立って、「人権侵害救済法」制定へのこれまでの取り組み経過を今一度確認しながら、今後の取り組みの方向と課題を提案します。

II .「人権擁護法案」抜本修正をめぐる攻防と廃案への経過

  1. 「人権擁護法案」提案に至る経過(背景)
    1. 1985年5月「部落解放基本法」制定運動の開始
    2. 1995年6月「与党・人権と差別問題に関するプロジェクト中間意見」(村山自社さ連立政権)
      1. 「人種差別撤廃条約」の年内批准
      2. 「人権教育のための国連10年」の取り組みの必要性
      3. 「人権擁護のあり方、実効ある人権侵害への対応のあり方」への検討開始の必要性
      4. 「同和問題の抜本的早期解決に向けた方策のあり方」についての十分かつ速やかな検討の必要性
    3. 1996年5月地対協意見具申
      「同和問題の早期解決にむけた今後の基本的な在り方について」
    4. 1996年12月「人権擁護施策推進法」成立
      衆参附帯決議=「二人権尊重の理念に関する教育及び啓発の基本的事項については二年を目処に、人権侵害の場合の被害の救済施策については五年を目処になされる人権擁護推進審議会の答申等については、最大限に尊重し、答申等にのっとり、法的措置を含め必要な措置を講ずること」
    5. 1998年11月国連・自由権規約委員会からの日本政府への勧告
      『委員会は、人権侵害を調査し、申立人のための是正措置を取ることに役立つような制度的機構(国内人権機関)が存在しないことに関して懸念を表明する。当局が権力の濫用を行わず、実際に個人の権利を尊重するということを保障する効果的な制度的機構が必要とされる。委員会の見解では、人権擁護委員はそのような機構ではない。なぜなら法務省によって監査され、その権限は勧告を出すことに厳密に限定されてしまっているからである。委員会は、人権侵害に関する苦情申し立てを調査する独立的な機構を締約国が設立することを強く勧告する』
    6. 2000年12月「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」施行
    7. 2001年1月国連・人種差別撤廃委員会からの日本政府への勧告
    8. 2001年3月国連・社会権規約委員会からの日本政府への勧告
    9. 2001年5月人権擁護推進審議会が「人権救済制度の在り方について」を第1次答申
    10. 2001年12月同審議会が「人権擁護委員制度の改革について」を第2次答申
  2. 「人権擁護法案」の抜本修正をめぐる攻防の経過
    1. 2002年3月8日「人権擁護法案」閣議決定(第154通常国会提案)
    2. 2002年7月与党懇と解放同盟との意見交換
    3. 2002年7月-10月8回におよぶ法務省と解放同盟との実務折衝と決裂
    4. 2002年11月参議院法務委員会で2回の審議(名古屋刑務所問題表面化)
    5. 2003年5月15日与党懇での法務省「人権擁護法案修正検討事項」ペーパー
    6. 2003年6月9日与野党修正協議の開始(2回)
    7. 2003年7月3日与党懇での同盟からの意見表明
    8. 2003年7月8日草川議員より「修正メモ」が同盟に提示
    9. 2003年7月10日野党3党協議「国内独立機関のあり方について」合意
    10. 2003年7月15日与党懇窓口議員と同盟との修正協議
    11. 2003年7月23日野党3党協議(与党「漆原メモ」についての協議)
    12. 2003年10月10日衆議院解散にともない「人権擁護法案」廃案(第157臨時国会)
  3. 人権侵害救済に関する法律制定は責任ある政治判断の問題
    時系列的に「人権擁護法案」が提案されてくる経過(背景)とその後の抜本修正をめぐる攻防の経過をみてきました。重要なことは、これらの経過の中でも明らかなように、人権侵害救済に関する法律は、部落差別の実態や名古屋刑務所問題などを直視し、これを救済するための法制度を整備するという今までにない議論を積み上げてきたという政治責任にもとづく政治判断が先行されながら動いてきたということであり、与野党の政治合意が重視されてきたということです。
    私たちは、この経過と到達点を踏まえながら、今後の「人権侵害救済法」の制定にあたっても、「政府責任」や「国際責任」ということはもちろんのことですが、とりわけ「政治責任」にもとづく真摯な政治判断によって、独立性と実効性を有したパリ原則に合致する法案として一日も早い制定実現をすることが肝要であると考えています。

III .秋の臨時国会で「人権侵害救済法」の制定実現をかちとろう!

  1. 「人権侵害救済法案要綱」(試案)の要点
    廃案となった「人権擁護法案」に対する抜本修正の闘いの成果を踏まえ、私たちが今年2月24日に策定・公表した「人権侵害救済法案要綱」(試案)は、公開シンポジュウムや各界での議論、地方実行委員会での討論学習会やパブリックコメントなどを踏まえて多くの意見が寄せられました。これらの意見を集約して、8月9-10日には学者・専門家など関係者によって検討会を行い、「人権侵害救済法案要綱」(試案)についての補強案をまとめてきました。
    補強案の要点は、当初の要綱試案の要点に加えて、「人権」の性質上、「草の根からの制度作り(市民→地方自治体→国の順序)」と「独立性・実効性の確保の優位性」という視点を貫いた法案構成にしようということです。全体的な補強要点の概要は次のようになっています。
    1. 法案の名称は、「人権侵害等の禁止及び救済に関する法律案」要綱(補強案)
    2. 「人権」「人権侵害」「不当な差別」の定義の明確化(補強案)
    3. 地域で迅速に対応できる都道府県人権委員会の設置
      1. 都道府県知事の所轄
      2. 「人権相談員」の設置等の事務所管
    4. 人権擁護委員制度の抜本改革(人権相談委員制度への切り替え)
    5. 独立性・実効性を確保した中央人権委員会の設置
      1. 「内閣総理大臣の所轄の下に、内閣府の外局として」中央人権委員会を設置
      2. 委員及び事務局の多様性・多元性の確保
      3. 救済機能や教育啓発機能に加え政策提言機能の強化
    6. 人権侵害救済手続の実効性の確保
      1. 公権力の人権侵害に関しての別立て規定(補強案)
      2. 救済申立人の拡大
      3. 人権侵害救済機関の人権委員会への一元化
      4. メディアの取材・報道規制の除外
  2. 「人権侵害救済法」早期制定への取り組み課題
    私たちは、「人権擁護法案」の抜本修正にもとづく「人権侵害救済法案要綱」を試案として既に公表し、各界の意見を集約しながら補強案もまとめてきましたが、法務省が予定している再提出法案が新聞報道に見られるようなメディア規制削除などの「一部手直し」というような段階であるとするならば、断固として反対せざるを得ないのは当然です。
    法案審議を秋の臨時国会から行うという方向は大いに是認できるとしても、法案の中身については、これまでの「人権擁護法案」をめぐる4国会での論議を真摯に踏まえ、「3つの責任」にもとづいて大胆に抜本修正されたものでなければなりません。
    今や日本の「国づくり」に人権の確立は避けて通れない課題です。そのための大事な法案である人権侵害救済に関する法律は、決して与野党の政争の具にされてはならないし、政府各省の省益の枠内にとどめてはならないことは、自明です。
    国内外の経験と英知を結集して、政府・与野党・院外の社会的世論が合意できる国際的に胸を張れるようなパリ原則を踏まえた法律に仕上げていくことが大事であると考えます。
    今秋の臨時国会で議論され、新たに提案されるべき「人権侵害救済法」は、「人権擁護法案」の廃案に至る経過での抜本修正を求める世論と与野党議論の到達内容を踏まえたものでなければなりません。
    私たちは、人権侵害救済に関する法律が日本にとって必要で重要な法案であるが故に、その早期制定を強く望んでいます。したがって、私たち自身も、今秋の臨時国会での法案審議と制定への取り組みを推し進めていく決意です。そのために、次の取り組みを行っていきます。
    1. 臨時国会で「人権侵害救済法」の制定を勝ち取ろう!
      第1の取り組みは、本日の「人権侵害救済法」の早期制定を求める「中央集会」において、秋期臨時国会への取り組みの意志統一をはかり、中央・都府県実行委員会を中心にして臨時国会闘争への周到な取り組みの準備と体制を整えていくことです。
    2. 人権侵害救済に関する法律制定にむけ、与野党協議を直ちに開始させよう!
      第2の取り組みとして、政治責任による政治判断を行っていく公式の場としての「与野党協議」の早急な開始を求めていきます。そのためにも、与野党の各政党に対して、「人権侵害救済法」の周知徹底と臨時国会での戦術論議のために、各党と中央実行委員会との「政策懇談会」の開催を要請していくとともに、超党派の「人権政策勉強会」(4月8日発足)の活発な活動を要請していきます。
    3. 「人権侵害救済法」制定への社会的世論を大きく巻き起こそう!
      第3の取り組みとして、法曹界やメディア界の各団体や人権諸団体に広範に呼びかけて、「人権侵害救済法」の早期制定にむけた社会的な世論づくりを行っていきます。そのために、各団体との意見交換会の設定や10月の適当な時機に「人権侵害救済法の制定を求める公開シンポジウム」の開催を追求していきます。
    4. 都府県実行委員会からの政府・各党への波状的要請行動を展開しよう!
      第4の取り組みとして、都府県実行委員会を中心に地方からの取り組みを強化して、政府・各党への働きかけを徹底するとともに、「人権侵害救済法」の早期制定を求める自治体決議の追求も行っていきます。また、全国人権同和行政促進協議会や全国知事会をはじめとした地方6団体への働きかけも強化していきます。
    5. パリ原則にもとづく国内人権機関設立へ国際的な取り組みと連携しよう!
      第5の取り組みとして、昨年女性差別撤廃委員会や子どもの権利委員会から「人権擁護法案」に対して具体的に懸念が表明されたように、「人権侵害救済法」の制定に関して国際的な注目が集まっています。
        とりわけ、韓国のソウルで9月14日から3日間の日程で開催される予定の「第7回国内人権機関国際会議」(約70カ国から参加)においても、日本の動向は大きな関心事になっています。9月21日には、大阪で、この国際会議に参加した代表団を招請して、「第13回ヒューマンライツセミナー」を開催し、国際的な取り組みとの連携を強化していきます。

  以上のような取り組みを中心にしながら、秋期臨時国会において「人権侵害救済法」の早期制定を勝ち取っていきましょう。

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