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2005.01.06
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法律・狭山部会・学習会報告
2004年11月29日
人権救済制度と国内人権機関

山崎 公士 (新潟大学)

 人権侵害に対する救済について制度化することを目的とした「人権擁護法案」は、昨年の衆議院解散に伴い廃案となった。その後、かかる法案の問題点を踏まえて、望ましい人権救済システムを提案する「人権侵害救済法要綱案」、およびその補強案の内容について、新潟大学の山崎公士教授より、報告を受けた。

人権政策・施策の整備と人権救済制度の確立

 これまで、部落解放運動をはじめとする長年の人権運動によって、日本の人権政策・施策は発展してきたが、特に人権救済にかかわる制度は不十分な状況である。他の諸国においては、国家権力による人権侵害や差別のみならず、私人間のそれについても救済の対象とする国内人権システムを確立してきた。かかる人権システムにおいては、社会的弱者の実質的な保護、人権侵害の被害者が安価で簡単かつ迅速に救済を受けられること、そして当事者やその支援者の視点を尊重する当事者参加型での運用に留意してきた。

 さらにその効果的な運用のために、政府から独立した国内人権機関を設置し、救済機能、政策提言機能、教育・啓発機能をもたせてきたところである。この人権機関については、いくつかの類型に分類し得るとしても、概ね共通する属性としては、「既存の国家機関とは別個の公的機関であって、法的な設置根拠を持ち、かつ人権保障に関する独自の権限を持ち、独立性を有するもの」として把握することができる。

 日本においても、人権救済制度として国・自治体・民間団体における人権相談・救済制度や、法務省における人権擁護行政、さらに人権擁護委員制度や司法的救済などがあるが、しかし安価・簡単かつ迅速な救済システムは未確立である。そのために、政府から独立の人権委員会を設置する必要がある。

人権擁護法案の問題点

 さて、先般廃案となった「人権擁護法案」においては、上記の国内人権システムの特徴からみて、やはり大きな問題点がある。第一に、法務省所管とされていることから、委員会の独立性に大きくもとるものがある。公権力の人権侵害を相対的に軽視していることも見逃せない。さらにメディアによる人権侵害が特別救済の対象とされていることも、表現の自由・報道の自由を脅かすおそれがある。さらに、組織体制の不備や、地方事務所を地方法務局に委ねていること、さらに政策提言機能が弱い点などが挙げられる。

人権侵害救済法案の要点

 そこで、部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会は、本年「人権侵害救済法」(仮称)法案要綱・試案を公にしたが、これを補強するものとして、学者・活動家が意見を持ち寄ってその「試案補強案」を取りまとめた。ここでは、上記のような「人権擁護法案」の問題点に照らして、より望ましい人権システムの確立を求めている。独立性の点では、内閣府設置とし、人権等の定義をより明確化した。特に、公務員等による人権侵害についての項目を明示した。また、差別禁止事由についても、「人種等」の定義を26項目に拡充している。被害者の身近な生活空間で救済を図るために、都道府県人権委員会を設置すると共に、総合的な人権相談・教育・救済体制を確立するために、人権擁護委員制度から人権相談員制度への改革を求めている。さらに、提言機能の強化を求めている。

今後の展望

 現在(報告時現在)開会中の臨時国会では、人権擁護法案が再提出される予定はなさそうであるが、次の通常国会(第162回国会)では、メディア規制への配慮をした上で、ほぼ元の法案のまま国会に再提出される可能性はある。それに備えて、どのように対応するかを見定め、国会への働きかけを不断に継続することが重要だ。

(李 嘉永)

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