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部落解放・人権政策確立要求中央集会(2003.07.15)より
掲載日:2003.07.18
部落解放・人権政策確立要求中央集会 基調提案
―人権擁護法案をめぐる第156国会終盤の闘いの現状と課題―


はじめに

 3回目の国会審議となっている人権擁護法案の取り扱いをめぐって、国会終盤の5月中旬頃から与野党の動きが活発化してきており、抜本修正をめぐる取り組みはきわめて緊張した情勢下におかれています。

国会会期末まで2週間を残すのみとなったこの時期に、さまざまな憶測や風聞に左右されることなく、人権擁護法案の動向について明確な現状認識を共有し、抜本修正への揺るぎない取り組みを強力に推し進めていかなければなりません。


úJ.終盤国会の動向と現状

(1)『与党・人権問題等に関する懇話会』の開催と与党動向

  1. 5月15日午後2時から与党懇が開催され、人権擁護法案の取り扱いについて協議されました。そこでの大要は、1.政府・与党の既定方針を再確認し、2.国会での審議促進を要請するとともに、3.解放同盟の要請に配慮して民主党を中心に野党との協議の道を探るということで、4.その折衝窓口は、草川(参議院)・滝(衆議院)議員があたるということが決定されたとのことでした。とりわけ、与党議員の中には既定方針通りとの強硬姿勢の意見も根強く存在していると言われています。

  2. そのことを裏付けるように、与党懇は5月20日付けで国対関係者に対して『人権擁護法案の早期成立について』という文書要請を行い、「本法案の今国会における成立に向け、特段の配慮」を促したものでした。

  3. しかしまた一方で、与党懇は5月27日付けで草川議員を通じて、輿石民主党参議院国対委員長宛に『人権擁護法案の早期成立について』の文書を行ってきました。その内容は、「当懇話会は、野党第一党である貴党に対し、与野党の英知を結集して今次国会において本法案を成立させるため、与野党間での意見交換並びに所要の法案修正のための協議をすることを提案したい。この協議に当たっては、当懇話会の草川昭三参議院議員並びに滝実衆議院議員を当懇話会の代表として当たらせる。野党第一党である貴党において、他の野党とご相談の上、本提案につき、真摯に対処されることを切にお願いする」というものでした。

  4. これら一連の与党懇の複雑な動向は、われわれの抜本修正に向けた「与野党協議の場の設定」という要請に一定配慮したものではありますが、同時に形だけの場作りを行いつつ野党分断を画策しながら政府・与党の小手先の部分修正だけで強行に法案成立を図ろうとする危険な意図が存在しているのではないかとの危惧がありました。

  5. 私たちにとっては、政府・与党の危険な意図を十分に警戒し安易な妥協をすることなく、法案の抜本修正に向けたしっかりとした与野党協議の中身づくりに積極的に関与していくことが今後の重要な課題となってきています。

(2)野党3党協議の状況と動向

  1. 私たちは、3度目の継続審議になっている人権擁護法案の抜本修正を実現するためには、従来の参議院法務委員会での審議では「所管替え問題」についても埒が明かないとの判断のもと、実質上の参議院法務委員会での審議凍結を行いながら、別途高い政治レベルでの与野党協議の場を設定して高度な政治判断を引き出すことが必要であるとの戦術設定を行い、取り組みを進めてきたことこは周知のとおりです。

  2. その取り組みの要が、野党3党による足並みを揃えた「統一対案」作成であり、この動きを政府・与党にぶつけながら与野党協議の場に与党を引っぱり出してくるということでした。私たちは、2月から3月にかけて、民主党を中心に野党3党に対して要請行動を繰り返し、3月19日に正式に『野党3党協議』を立ち上げることに成功しました。その後、統一対案を作成するための『野党3党実務者協議』も設置され、今日まで頻度を重ねながら協議が続けられています。

  3. 野党3党協議の現在の構成メンバーは、次のとおりです。
      民主党=中野寛成(衆・大阪8区)、江田五月(参・岡山選挙区)
      社民党=中西績介(衆・比例九州/福岡)、植田至紀(衆・比例近畿/奈良)
      自由党=中井 洽(衆・比例東海/三重)、石原健太郎(衆・比例東北/福島)
                                   【各党前者が責任者、後者が実務協議者】

  4. 野党3党協議の動きは、政府・与党に対する強力な政治的プレッシャーとして作用し、5月15日の与党懇開催および与野党協議への一連の動きをつくり出してきたことは紛れもない事実です。5月23日に開催した『野党3党協議』では、今後の方向として、1.常に3党協議の上で与党対応していくこと、2.早急に統一対案の「要綱」作成を行うこと、を確認しています。

(3)与野党協議の開始と現状

  1. 6月9日午後4時15分から30分の予定が延長されて約45分間、初めての与野党協議が開催されました。出席したのは、与党からは草川議員(公明)・滝議員(自民)、野党からは中野(民主)・中西(社民)・中井(自由)議員です。

     しかし協議では、与党側が今国会での成立を呼びかけ、これに対して野党側は法案の抜本修正を求めたが、滝議員より「内閣府への所管替えは与党内では話題にもあがっていない」との姿勢が示され、平行線をたどったまま歩み寄りはできませんでした。

     なお、与党による強行採決には一定の釘をさしたものの、今後の与野党協議については、「今日の会議を受け、与党から何か提案があれば野党はいつでも受ける用意がある」との中野議員の集約発言がありましたが、与党からの明確な意志表示はありませんでした。

  2. この間、与野党間での水面下での動きは、さまざまな政治的思惑を絡めて錯綜します。一部マスコミなどの動きもあり、「継続」「廃案」「強行採決」などいろいろな風聞が飛び交いました。

    このような中で、国会会期の7月28日までの40日間延長や野党3党の統一対案要綱作成の進行状況をにらみながら、与党の方から再び与野党協議の開催を呼びかけてきました。

  3. 第2回与野党協議は、6月27日午前10時から約1時間行われました。出席者は、第1回協議のメンバーに加えて与党から公明党の漆原議員(衆法務委員/比例北信越・新潟)が新たに参加してきました。

    協議では、与党の方から「野党の対案要綱を示してほしい」との要請がなされ、野党は「まだまとまっていないので今日の段階で提示できない」とのやりとりがあり、修正協議は入り口でのつばぜり合いという現状となりました。しかし、何点かの重要な議論も行われました。

    その一つは、与党・公明党の草川議員が「今国会で何とかなればと思ってはいるが、参議院法務委員会の魚住委員長は公明党でもあり、強行採決は絶対にさせない」との決意を披瀝したことです。また、野党・民主党の中野議員からは「今国会では十分な審議時間がとれないので、閉会後も冷静に与野党協議を続けるようにしたらどうか」との提案も投げかけられました。

    もう一つは、与党側から「与党の中では、“人権問題の取り組みはすすめていきたいし、今国会で人権擁護法案もあげたいが、事業法につながるようなものではダメだ”、との空気がある」との意見が出されましたが、野党側から「事業法につながるような法律は、運動体の方も一切要求していない」と明言したことです。

(4)与党懇における解放同盟の意見表明

  1. 7月3日の午後2時から与党懇が開催され、部落解放同盟3役からの人権擁護法案の抜本修正に係わる意見表明が行われました。出席者は、次のとおりでした。

    (自民党)野中広務・古賀誠・自見庄三郎・滝誠
    (公明党)冬柴鐵三・草川昭三・東順治・漆原良夫(新)・田端正広
    (保守新党)二階俊博
    (解放同盟)組坂委員長・大野副委員長・吉田財務委員長・松岡書記長・谷元書記次長

     開会にあたって、野中座長は「3国会にわたっているのは誠に遺憾であり、運動体からの意見を今日は伺いたい。既に方向性や予算も出ているもとで、残念な結果になってはならないと思っている」と述べた後、解放同盟からの意見表明を求めました。

     解放同盟からの意見表明では、まず組坂委員長が概ね次のような意見を述べました。

    1.パリ原則にもとづく独立性と実効性のある人権擁護法案への抜本修正を求め、法務省と協議を続けてきたが合意に達しなかったこと。2.内閣府への移管は独立性担保の問題であって、巷間言われているような特別対策的な事業法を求めるものではないこと。3.抜本修正を求める各界の代表署名が2万1千人を越えていること。4.国連機関や韓国人権委員会など国際的にも大きな懸念が寄せられていること。5.是非とも、国際的にも恥じない人権擁護法の制定を行い、歴史の批判に耐え得るようにしてもらいたいこと、を訴えました。

     次いで松岡書記長の方から、人権擁護法案の抜本修正について「6項目要請」を中心に詳しく説明を行いました。その中で、大阪府警の身元調査差別事件や自らの被差別体験を交えながら、従来のような特別対策事業ということではなく、本当に人間らしく安心して生きていくことができるような人権の法制度が必要であり、人権擁護法案をその礎として仕上げてもらうためにも、法務省論議の枠組みをはずして政治的に高い判断をもって与野党協議を行ってもらいたいことを強調しました。
     この後若干の意見交換が行われ、野中議員を中心に自見議員や冬柴議員からも意見が出されたところです。この結果、与党懇の今日時点での見解は次のように集約できます。

    1. 人権擁護法案は大事な法案であること。
    2. 法案についての修正協議を野党と行っていくこと。
    3. 但し、法務省の所管替えの問題は、行革下での新たな機構作りは困難であること。
    4. しかも、内閣府への移管ということになれば、地方での機能を発揮する能力がないこと。さらに、そのような状態の内閣府へ移管することは怖さを感じること。
    5. 法案の問題点については、委員や事務局の問題、沖縄事務所の問題等々につき、法文附則や国会付帯決議などで補強していくこと。
    6. 運動体の内閣府への移管要求は、特別対策的な事業への要求につながるものではないことを共通の認識として共有したこと。

  2. 解放同盟の意見表明を受けた後、与党懇では、与野党協議の経過や法務省からの説明を受け、今後さらに野党や解放同盟との修正協議の作業を精力的に継続していくことを申し合わせしたということです。

úK.人権擁護法案をめぐる現状認識と展望

(1)抜本修正への取り組みの現状

  1. 人権擁護法案の抜本修正の取り組み現状を概括したとき、与野党に対する取り組みを通じて、次のような段階にまで至っていると言えます。

    1. 人権擁護法案は、必要で大事な法案であること。
    2. ただし、政府原案には問題があり、修正する必要があること。
    3. 修正については、与野党協議で行っていくこと。

  2. 以上のような現時点での到達段階を踏まえ、今後さらに明確に論点を整理しながら、抜本修正への道筋を具体化していく必要があります。同時に、緊迫した国会運営情勢を踏まえながら有効な戦術設定をしていくことが求められています。

(2)人権擁護法案の取り扱いをめぐる選択肢の現状

  1. 与党側は今国会での早期成立をめざしていることに変わりはなく、強行採決の危険性が皆無とは言えないませんが、現在の与野党の状況や国会での審議日程から言えば、3回目の「継続」の可能性が大きいのではないかと判断されます。しかし、今回の「継続」は、与野党協議が進展しないとすれば、法案成立への意欲を残した継続とはならず、「自然廃案」となっていく公算も強いと言わざるを得ません。

  2. とりわけ、臨時国会が9月中旬に開催され、10月解散―総選挙が具体的な政治日程として浮上してきているもとでは、時間的な問題から言っても「廃案」が現実味を帯びてくる状況になってきます。

  3. もちろん、言わずもがなのことですが、急速に与野党協議が進展して抜本修正の合意が成立すれば、今国会もしくは臨時国会において法案が成立するという可能性がまったく閉ざされているわけではありません。

  4. 以上のような現状認識のもとで、私たちとしては、最後の最後まで「廃案を求めず!廃案を恐れず!断固として抜本修正を求める!」という姿勢を堅持して、与野党協議の場を継続・強化していく取り組みを進め、抜本修正を勝ち取る必要があります。

(3)人権擁護法案の抜本修正への展望

  1. 今国会における人権擁護法案の取り扱いをめぐっては、「強行採決」「再々再継続」「廃案」「抜本修正成立」という4つの可能性が現時点で想定されます。

  2. 私たちは、強行採決を断固として許さず、あくまでも抜本修正にもとづく法案成立をめざしていきますが、万が一抜本修正が行われずに「廃案」となった場合には、与党からの再提案はあり得ないということを念頭において、与野党の広範な議員を結集して「議員立法の道」をめざしていくという腹構えをしておく必要があります。

úL.当面する闘いの基本と課題

(1)今国会における基本戦術の確認

  1. 国会終盤の大詰めを迎えた今日時点において、人権擁護法案の抜本修正への基本的な「5つの要点」を再度確認しておくことが重要です。

    私たちは、以下の「5つの要点」にもとづく抜本修正を最後の最後まで粘り強く求めていきます。

    1. 人権委員会の所管を法務省から内閣府へ移管すること
    2. 都道府県ごとに地方人権委員会を設置すること
    3. 国・都道府県の人権委員会委員・事務局を独自に採用すること
    4. マスメディア規制や人権NGOへの不当妨害を排除すること
    5. 人権擁護委員制度の抜本的な制度改革を行うこと

  2. この際もう一度確認しておかなければならないことは、「5つの要点」は人権委員会の「独立性」と「実効性」を求めるという基本から出てきているということです。例えば、現在一番焦点化している法務省所管問題にしても、現時点で「内閣府へ移管」するということは当然であるにしても、それでは「内閣府に移管」されたら人権委員会の「独立性」が完全に担保されるのかと言えば、決してそうではないということです。

     「独立性」は、創設される人権委員会に付与される権限や機能によって担保されるものであり、人権委員や事務局構成によって大きく左右されるものです。その意味で、「独立性」の問題が単なる「所管」の問題にすり替えられて議論されてはなりません。所管問題は、政府機構における「よりましな選択」の問題であって、人権委員会の独立性に係わる本質的な問題ではないということです。

    議論が大詰めを迎えている段階で、私たちが求め続けてきた人権侵害救済機関としての人権委員会の独立性と実効性の問題の本質を見失うことなく、人権擁護法案の抜本修正を求めていくことが重要です。まさに、目的を手段と取り違えたり、木を見て森を見ないような議論に落ち込まないようにしなければなりません。

  3. 以上のような基本認識を再確認しながら、既に何度も確認してきたように国会闘争における基本的なスタンスは、『廃案を求めず!廃案を恐れず!徹底して抜本修正を求める!』ということを貫いていく必要があります。

  4. そのために、参議院法務委員会での審議凍結を行い、「人権所掌は法務省」という霞ヶ関の論理の枠組みを乗り越えて、高度な政治決着に向けた与野党協議の場において、抜本修正への実質協議を促進させていくということが重要なのです。

     会期末まで残り2週間足らずになってきましたが、与党・野党に対する息を抜かない働きかけを強化していかなければなりません。

(2)与党懇・野党3党に対する働きかけの強化

  1. 与党懇も7月3日現在では、野党や運動体との修正協議を行っていくことを明らかにしており、抜本修正への不退転の働きかけを強化していくことが重要です。

  2. 野党3党も既に『修正要綱』をまとめており、足並みを揃えて与野党協議を精力的に展開していくように働きかけを強化していく必要があります。

(3)効果ある与野党協議の継続・強化

  1. 前述のような与党および野党に対する働きかけを行いながら、抜本修正に向けての効果ある与野党協議を促進させていく取り組みを行っていきます。

  2. 与野党協議の場は、抜本修正を現実化させていくためには、きわめて重要な場であり、安易に決裂させることなく粘り強く継続・強化していく働きかけが必要です。

(4)継続した「人権委員会創設」への共闘体制づくりへの着手

  1. 人権擁護法案の抜本修正およびその後の取り組みを射程に入れて、日弁連・自由人権協会・メディア関係団体等に対して、状況報告・意見交換を中心としたオルグ行動を行っていきます。

  2. 国会論議へのインパクトを与える適切な時期を勘案して、頓挫していた『アジア・太平洋地域国内人権委員会フォーラム』の専門家セミナーの開催の働きかけをイマダなどを中心に再度行い、その国内受け入れ団体として前項の諸団体を中心に実行委員会を組織化していきます。

  3. セミナーが実現すれば、実行委員会をそのまま継続していく方向を追求し、実現できなかった場合も「共闘」体制づくりを進めていきます。

(5)地方自治体からの要請行動の強化

  1. 各地実行委員会の独自要請行動とともに、各地方自治体からの独自の要請行動も取り組んでいきます。とりわけ、「地方人権委員会の設置」を強く要請していく体制をつくり出していくことが重要です。

     また、鳥取県の地方人権委員会設置への動きなどに注目しながら、これに連動させて拠点府県を設定し地方人権委員会設置の取り組みを全国化していくことが重要です。(2003年6月2日付 日本海新聞を参照)

  2. さらに、地方自治団体関係に対する働きかけも強化していく必要があります。これは、人権擁護法案の抜本修正のみならず、新同和行政・人権行政の確立要求も含めて強力な取り組みをしていきます。

     7月25日には、全国人権同和行政促進協議会(旧全同対)との意見交換会をもつことになっていますが、各ブロック別の意見交換会も設定していきます。さらに、全国知事会、全国市長会、全国町村会、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会などとも順次意見交換会の場を設定していきます。

(6)内閣府交渉の実現に向けた取り組み

  1. 5月6日付けの「同和行政・人権行政の確立に関する交渉について」の申し入れにもとづき、内閣府交渉の実現に向けた取り組みを強化していきます。

  2. 内閣府交渉の実現は、人権委員会の所管問題や今後の政府の人権窓口機構の設置に係わっても重要な課題であるので、粘り強い実現への取り組みを継続します。

以 上

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