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2005.07.15
意見・主張
  
部落解放・人権政策確立要求中央集会基調
2005年5月23日
はじめに

(1)今国会での状況

 第159通常国会の会期も3週間ほどを残すだけになってきました。しかし、昨年の10月に自然廃案となった「人権擁護法案」に代わる人権侵害救済に関する法律の再提案の動きは、残念ながら行政府においても立法府においても具体化していないのが今日時点の現状であると言わざるを得ません。

(2)前回の中央集会での確認事項

 私たちは、本年2月3日に開催した前回の中央集会で、次のような取り組み課題についての方向性を確認してきました。

 『これまでの「人権擁護法案」の抜本修正を求めた取り組みの経緯を踏まえるならば、 廃案となった原案をベースにした小手先の修正による「焼き直し法案」の再提出と いうことでは到底認めることはできません。また、イラク問題などの議論によって 人権侵害救済法の議論が後景に押しやられるような事態を招くことなく、人権擁護 推進審議会答申の具体化とパリ原則に基づいた真に人権侵害救済に実効性のある新 たな「人権侵害救済法」の提案・制定を立法府の主体的な責任において追求してい くことが不可避であると考えます。したがって、私たちは、地方人権委員会構想を 含めて「人権侵害救済法」の具体案を早急に検討し作成していく作業を行います。 そして、各界の広範な人びとの意見を集約できる「シンポジウム」のような場を設 け、院内外の英知を結集しながら将来に禍根を残さない「人権侵害救済法案」を策 定し、強力な早期制定運動を推し進めていきます』。

(3)第159通常国会での取り組みの強化

私たちは、人権侵害救済に関する法律の制定が、日本における人権確立への法制度の礎を築くために是非とも必要であるとの思いから、前回の中央集会での確認に基づき誠実に取り組みを進めてきました。しかし、今国会ではイラク問題や北朝鮮問題、さらに年金問題や司法改革問題などが議論の中心となり、「人権侵害救済法」の早期制定に向けた行政府・立法府の重い腰を動かす事態にまで至っていません。

 まさにこの事態こそが政治の貧困を如実に物語っていると言えます。すなわち、イラク問題では、罪もない多くの市民や子どもたちが犠牲となり尊い人命が奪われています。「戦争は最大の人権侵害である」という事態が現実のものとなっているのです。大義なきイラク戦争に「人道支援」の名の下に自衛隊を強行派遣するのではなく、人権の視点に立った人道支援のあり方こそが真剣に議論されるべきなのです。その意味でも、今国会において、「人権侵害救済法」の真剣な議論が展開される必要があります。

 私たちは、この間の取り組みを踏まえながら、今国会での膠着状態を打開し、「人権侵害救済法」の早期制定への道筋を確立するための方向性を本集会で意思統一していきたいと思います。

 I .『人権侵害救済法』早期制定をめぐる取り組みの現状

(1)早期制定への「3つの責任」を追及する取り組み

 まず最初に確認しておくべきことは、私たちが昨年の「人権擁護法案」の廃案以降、何度も繰り返し強調してきたように、「人権侵害救済法」の早期制定が、政府責任・国際責任・政治責任という「3つの責任」に基づくものだということです。

 私たちは、この「3つの責任」を徹底的に追及しながら、一日も早い「人権侵害救済法」の制定を求めているということです。今後もこの「3つの責任」の追及が、「人権侵害救済法」の早期制定を求めていく闘いの基本であることは変わりありません。

(2)与野党の各政党への「質問状」の提出(政治責任の追及)

 そこで、政治責任の問題については、前回の中央集会の確認に基づき与野党の各政党に対して、人権侵害救済に関する法律の早期制定を求める「質問書」を提出して、その回答を求めたところです(2月3日)。しかし、現時点で文書回答してきているのは民主党だけであり(2月26日)、引き続き各党の回答を実質的に求めながら、政治責任を問うていくことが重要です。

(3)「人権侵害救済法案要綱(試案)」の策定と公表(政府責任の追及)

 また、国際責務を踏まえた政府責任の問題については、政府に再提案をする動きが見えないことから、議論への一石を投じるために「人権侵害救済法案要綱(試案)」を私たちの側から策定し、公表しました(2月24日)。

今回公表した「人権侵害救済法案要綱(試案)」は、昨年の10月に衆議院解散に伴い廃案となった「人権擁護法案」をパリ原則を踏まえて抜本修正するという観点から、試案としての法案要綱を提示したものです。

 II .「人権侵害救済法案要綱(試案)」のポイント

(1)法案要綱の性格

 この法案要綱は、あくまでも人権侵害救済の法制度を早急に作り出す必要があるということから、国会での「人権侵害救済法」早期制定の議論を促進するための「たたき台」という性格のものであり、この法案要綱そのものの実現をめざすということではなく、今後の院内外の広範な議論のなかでさらに充実した内容をもって練り上げられていくことを期待しているものです。

(2)法案要綱のポイント

 法案要綱の主たるポイントは、次の点です。第1は、独立性・実効性を確保した人権委員会の設置ということです。これは、人権侵害救済機関である人権委員会が政府機関からの独立性を確保するために内閣府の外局として設置されるとともに、委員や事務局員の多様性・多元性に配慮するということです。また、「救済」機能や「啓発・教育」機能に加え、人権政策推進にかかわる「提言」機能を強化していることです。

 第2は、地域で迅速に対応できる都道府県人権委員会を設置するということです。これは、都道府県知事の所轄のもとに、中央人権委員会管轄の人権侵害以外の案件を扱うとともに、「人権相談員」の設置等の事務を行うことにしています。

 第3は、人権擁護委員制度の抜本修正です。これは、実効性の上で多くの問題を抱える現行の人権擁護委員制度を改正し、国や都道府県に設置される人権委員会のもとで、地域における効果的な人権侵害救済活動等ができるように「人権相談員」制度として整備したものです。

 第4は、人権侵害救済手続の実効性の確保ということです。これは、救済申し立て者の拡大、人権侵害救済機関の人権委員会への一元化、メディアの取材・報道の除外などをその内容としています。

 さらに、人権擁護法案でも一面積極的な内容として提示されていた「人権侵害等の禁止」事項をさらに厳密にするために、「人権」および「人権侵害」の定義と「不当な差別」の定義を明確にしたことも大きな特徴です。

 いずれにしても、人権擁護法案の抜本修正の論議を踏まえて、法案要綱を試案としてまとめたものですが、細部についてはまだ不充分な点も多々あり、今後の議論の中で充実させていくことが不可欠です。

 III .「人権侵害救済法」の早期制定への取り組み課題

(1)早期制定への社会的世論づくりの取り組み課題

 私たちは、「人権侵害救済法」の早期制定を実現していくための社会的な世論形成の取り組みとして、3月9日に「人権侵害救済法案要綱(試案)検討シンポジウム」を憲政会館において公開で開催してきました。国会議員やマスコミ関係者、地方行政、運動関係者などが参加し、法案要綱・試案について論議が交わされたところです。

 今後、日弁連やマスコミ界などをはじめとして、同様のシンポを各界に継続的に仕掛けながら広範な社会的世論を創り出していく必要があります。

 同時に、早期制定への条件を整えるために、関係運動団体や組織に意見の相違があるということを理由にして引き延ばしされないために、3年間休眠状態であった「人権政策の確立を求める連絡会議」(略称=人権会議/解放同盟・自由同和会・全同教・全隣協で構成)を2月より継続的に開催し、4月12日に共同の要請文を関係機関に送付したところです。要請文は、次の2つです。『「人権侵害救済に関する法律」の早期制定を求める要請書』と『「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」の積極的活用と「人権教育のための国連10年」に関する要請書』です。今後とも、共同のテーブルでの議論を行いながら、必要な共同行動を追求していくことにしています。

(2)政府および各政党の現状と取り組み課題

 政府・法務省関係は、現在のところ再提案への動きは示していませんが、その意志を放棄しているわけではありません。法務省内では来年通常国会にむけて再提案の準備をしているとも言われています。

 各党の動向については、自民党内において人権問題等調査会(上野会長・熊代事務局長)の党機関とは別に、議員有志による「人権問題推進懇話会」(呼びかけ人=自見庄三郎議員)の再編が行われています。公明党では同和・人権委員会(東委員長・山名事務局長)による『「人権侵害救済法案(試案)」の学習会』が、3月10日に開催されています。また、民主党では、部落解放推進委員会(川端委員長・堀込事務局長)のもとで連続学習会が3月より開催されています。社民党も部落解放運動推進委員会の新体制を整えてきています。

 このような中で特筆すべきことは、4月8日に超党派での「人権政策勉強会」(自民=自見議員・公明=山名議員・民主=仙谷議員・社民=横光議員が参加)が発足し、活動を開始したことです。今後、「人権侵害救済法」の早期制定にむけての法案内容や立法手段も視野に入れての勉強会が定期的に開催されていくということであり、この動向に重大な関心を払うとともに積極的な働きかけを行っていく必要があります。

(3)地方実行委員会における取り組み課題

 人権侵害救済に関する法制度を確立していく取り組みは、国レベルだけでなく地方自治体レベルでの取り組みが重要な意味をもっています。それは、人権侵害が公権力によって引き起こされる場合と私人間で引き起こされる場合があり、とりわけ後者の場合は日常生活圏域で生起するものが圧倒的に多く、地域レベルでの迅速で実効性ある取り組みが不可避だからです。私たちが一貫して「人権委員会」の独立性・実効性を確保するために地方人権委員会の設置を求めてきたのもそのためでした。

 したがって、人権侵害救済に関する法制度を確立していく取り組みは、地方自治体や人権NGOなどの民間レベルでの積極的な関与と参加なしには内実を創りあげることはできません。当面、地方実行委員会において次のような取り組みを行っていくことが必要です。

 第1の課題は、「人権侵害救済法案要綱(試案)」の検討・勉強会や公開シンポジウムなどをできるだけ広範な各界の人びとに呼びかけて開催していくことです。そして、法案要綱を充実したものに仕上げていくとともに、早期制定への気運を盛り上げていくことが重要です。

 第2の課題は、地方人権委員会が都道府県の所轄になることが望ましいことから、都道府県での庁内検討会を設置していく取り組みを行い、「人権侵害救済制度のあり方」についての議論を行う体制をつくることです。既に、鳥取県、大阪府、福岡県などではそのような取り組みが行われており、大阪府では『地方における人権救済機関に関する研究会・まとめ』が最近公表されており、これらの活用を行っていく必要があります。

 第3の課題は、6月地方議会での「人権侵害救済法の早期制定を求める議会決議」を追求していくことです。また、秋の臨時国会を射程に入れながら、同様の「各界代表署名」運動の準備をしていくことも検討していく必要があります。

 最後になりますが、私たちは、「人権侵害救済法」の早期制定に向けて、「3つの責任」を徹底的に追及しながら、「法」制定の実現を勝ち取っていくために院内外の広範な世論を形成して社会的・政治的条件を整える取り組みに全力を集中していくことを確認したいと思います。とりわけ、今国会での議論が夏の参議院選挙を射程に入れて推移している状況を見るとき、今国会での「人権侵害救済法」の制定を求める取り組みは重要な意義があり、参議院選挙においても「人権政策」が大きな争点となるように繋げていく取り組みとして強化する必要があることを提案し、本集会の基調にします。

以 上

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