刊行にあたって
2005年は、人権の歴史にとってさまざまな意味で節目の年です。
なによりもまず、第2次世界大戦が終結し、60年にあたります。この戦争を深く反省するなかから、1948年12月10日、第3回国連総会で世界人権宣言が採択されました。この宣言の基本精神は、「差別を撤廃し、人権を確立することが恒久平和を実現することに通じる」ということにあります。この基本精神こそ、21世紀において、人類が受け継ぎ実現していかねばならないものです。
2005年は、日本にとってもアジア・太平洋戦争で敗戦して60年という節目の年にあたっています。この戦争を反省することのなかから、日本は1946年11月、主権在民、戦争放棄、基本的人権尊重を3本柱とする日本国憲法を制定しました。今日、この憲法を守り、発展・具体化させていくことが求められています。
日本における人権運動の要である部落解放運動にとっても、2005年は、さまざまな意味で節目の年にあたります。
敗戦直後の1946年2月、部落解放運動は、部落解放全国委員会として再建されました。そ後の運動の拡大を受けて、1955年8月、部落解放同盟と名称を変更し、国策樹立を求める運動を開始してから50年にあたります。
1965年8月、内閣同和対策審議会答申が出され、「同和問題の早急な解決の責務は国にあり、同時に国民的な課題である」ことが明らかにされました。これを受けて1969年7月、同和対策事業特別措置法が制定され、本格的に同和対策事業が実施されることになりましたが、その答申から40年にあたります。
1975年11月、部落地名総鑑差別事件が発覚し、日本企業の深刻な差別体質が明らかになりました。この事件に対する糾弾闘争を経て、民間企業のなかで部落問題についての取り組みが始まりますがそれから30年にあたります。
一連の「特別措置法」に基づく事業によって、住環境面を中心に差別の実態は改善されていきましたが、その後もなお差別意識は根深く存在し、差別事件も後を絶たないという現実に直面しました。このため、部落問題の根本的な解決のだめに「部落解放基本法案」がとりまとめられました。その実現を求める運動が1985年5月から開始され、20年にあたります。
1995年12月、日本はついに人種差別撤廃条約に加入しましたが、それから10周年にあたります。この条約は、差別撤廃の基本方策を盛りこんでいるきわめて重要な条約です。この条約の実施状況に関する日本政府の第1・2回報告書を審査した人種差別撤廃委員会は、2001年3月、部落差別がこの条約の対象であることを明確にした最終所見を採択しました。こうして、部落問題は、今日、国際的にも注目されるところとなっています。
戦後60年を機に、この間の部落解放をめざす歩みを振り返り、成果と課題を明らかにし、部落が解放された、差別なき平和な日本と世界を創造するための取り組みを飛躍的に強化することが求められています。この冊子が、そのために役立つことを願ってやみません。
末筆になりましたが、この冊子発刊に際し、部落解放同盟中央本部をはじめ関係の皆様のご協力をいただきましたことに感謝申し上げます。
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